運動した後の体は心なしか、肌つやがすべすべしているのを実感、これからも週二回は続けて成果を出したいと思っていた。

ジムの外に出て、秋の少しひんやりした空気に当たると、急に空腹感に襲われた。駅までの距離は少しあるが、ゆっくり歩きながら美味しいお店を見つけようと思い、ゆっくりした足取りでスポーツバッグを右手にぶらぶらさせながらけやき並木を歩いた。

ジムに来るときに通った時、気が付かなかったが、けやきの幹の太さが三十センチもある大木だった。また真っすぐ上に伸びて電信柱の電線よりはるか上まで伸びていた。自治体の土木管理も木々の剪定は大仕事だろうと、山形家の庭木の手入れとダブらせて、落ち葉を踏んでいた。今年の夏の異常気象のせいだろうか、けやきの落葉が少し早いように感じた。

少し前方に立て看板を見つけた。もう少し近づいてみると、定食屋の看板だった。

黒い板に白字で焼き魚定食千円とあり、かっこして「サバ」と書いてあった。定食屋の前まで来た。サバを焼くいい匂いが店外まで漂っていた。きっとおいしいに決まっていると美代子は決めつけて、腹ペコの体で暖簾を左右に分けて入った。

「いらっしゃい!」と威勢のいいお兄さんの声が迎えてくれた。お昼の時間が過ぎていたので、近くのサラリーマンたちが一巡した後で、店内は空いていた。奥まった席に通されたので、美代子は躊躇なく「サバ焼き定食」と席に座る前に注文した。

カウンターの向こうでは頭に鉢巻をした若いお兄さんが、炭のコンロでサバを焼き始めていた。

お兄さんが振り向いた時、丁度美代子と目が合ったので、お兄さんが

「ジムの帰りですか?」

と問うてきた。

「ハイ。どうして?」

「顔つやが良くて光って見えたもんで」

「そうですか」

「光っていますよ。お姉さんはより美しく見えます」

「ありがとうございます」