迷いながら揺れ動く女のこころ

やがて、全身きれいな小麦色した、見るからに二十代のインストラクターが登場。

「皆さん、こんにちは。靄がかかった教室で皆さんの顔が良く見えませんが、元気ですか?」

「はーい」

「こまめに水分を取りながら自分のペースでやってくださいね」

教室にスローテンポのバックグラウンドミュージックが流れてきた。

「体をしなやかに大きく伸ばしながら、手の指先から足の指先まで、血液が流れているのを感じるように動かしましょう」

美代子自身、室内の温度は体感で三十度ぐらい、そして湿度は七十パーセントぐらいあるように思えた。丁度良い温度・湿度で瞬く間に全身から汗がしたたり落ちてきた。身長が数ミリ伸びるんじゃないかと思うぐらい体がスムースに動く。

花帆が勧めてくれたことが納得。体内の毒素が洗い流されて清められるようで、インストラクターの動きに合わせて最後まで楽しくやることが出来た。

レッスンに取り組んでいる間は、主人のことも家政婦の美月さんのことも忘れているのでストレスの発散に、運動がうってつけであることを実感した。          

「そうだ、私も篠田さんが勧めていたミストサウナを試してみよう」

と思い、混雑しない間に急いでサウナ室に小走りで向かった。すでに先客がいたが石造りの腰かけに座った。天井からは温かいミストが降り注いできて全身が霧に包まれたようで、別世界を感じることが出来た。

誰かがコーナーに置かれた灼熱の石にじょうろで水をかけた。新たな蒸気が立ち上り、室内の温度が急に上昇した。汗が染み出てくるようだった。ミストサウナの中では皆、静かでそれぞれが自分の殻にこもっているようで異様にさえ思えた。

十分近くいると少し息苦しく感じられたので出た。そして大きな浴槽に身を沈めた。浴槽の真ん中ぐらいは、ぶくぶくと泡で水面が盛り上がっていた。美代子は泡の刺激を試してみようと思い中央部に移動した。浴槽の底から泡が湧き出ていて、体に当てると心地良い刺激となった。

美代子は誰も周りにいないことを確認して、脱衣所に有った大きな全身を映す鏡の前に立ち、今日一日の成果を見届けた。心なしかウエストが締まったようにも思えると自己満足して、人の気配を感じたのでその場を離れた。