「うちはジムの利用客が多いんだけど、あまり見かけませんね」
「今日が初日なんです」
「このサバも相模湾で取れた秋サバで、初入荷です」
「ほら、脂が乗ってるから煙が立つでしょう! 旨いよ!」
店内は焼く魚の煙でいぶされたのか全体が黒ずんで、年季が入っている様子だった。
美代子は「ただいま」と言い、玄関の上り口にいたところに、台所から美月さんが
「お帰り、初日の感想はいかがでした? 疲れたでしょう。お食事は?」
「運動した後だったので、お腹が空いたからジムの近くの定食屋で済ませてきました」
「たまプラーザ駅近辺はオシャレな店が一杯あるでしょう」
「ジムの近くで、匂いに誘われてサバの焼き魚定食をいただいたの。美味しかったわ」
美月は美代子の顔を覗き込みながら
「気のせいか若返ったみたいですよ」
「汗を流して昼間からサウナに入ってきたからじゃない?」
「きっとご主人もびっくりなさいますよ」
「そうね、夕食時に反応を見てみましょう」
美代子は、主人の気持ちを引こうなんてつもりは毛頭ないから、美月の言葉にはそれ以上の反応を示さなかった。逆に美月に向かって少し意地悪な言葉を言った。
「美月さんこそ最近色気が出てきたみたいよ」