その言葉を聞いて、バーバラの目も潤む。

バーバラは声が震えないように、腹の底に力を入れた。

「本当の気持ち、聞かせてくれて、ありがとう。居場所が見つかるまで、ここを居場所にしなさい。みんなが果音ちゃんを認めてくれるまで、応援するからね!」

「う、うん……」

果音の顔から、敵意の表情が消えた瞬間だった。

果音が保健室を出た後、彼女の叫び声に驚いた先生たちが、心配そうに保健室を覗きにきた。生徒も何人かやってきた。

興味本位の生徒もいたが、皆心配そうな表情だった。

「大丈夫。きっと大丈夫」バーバラの声が少し震えた。

九.嘘 

果音にとって、ショウ以外の大人は敵だという考えは変わらなかったが、バーバラの言葉は果音の胸に刺さった。

「居場所ができるまでの居場所」ができたかもしれないと思えた。

これまで心に溜め込んだ言葉を吐き出せてすっきりしたし、応援してくれる人がいることも実感した。

少し気が楽になった果音はショウにメッセージを送った。

小一時間ばかりメッセージのやり取りをしていたが、最後のメッセージは少し緊張しながら紙飛行機のマークを押した。

「ショウ君に会いたい」

ピロリン~♪

「OK! いつにする?」

(即レス! だからショウ君好き)

果音は「次の土曜、駅前で」と伝える。

ピロリン~♪

「了解! 車で迎えに行くよ。ドライブしよう」

ドライブと聞いて、果音は舞い上がった。大人のデートみたいだと思った。

果音は嬉しさを押し殺し、わざと大人ぶって返信する。

「ドライブね。いいよ」

ピロリン~♪

「じゃ、土曜日の十一時、駅前で」

金曜日、果音は何もかも上の空だった。夜もなかなか寝つけなかった。 

【前回の記事を読む】果音の考える『死』の軽さとこの一字に込められた深遠なる重さ