一

「ここは定食もあんねで。四種類や。どれも三百五十円やし、まあまあ腹いっぱいになんで」

西山が振り向いた壁には四つ切大の紙がセロテープで貼られていた。切り取られたカレンダーの裏を利用して「定食」と太いマジックインキで手書きされている。四種類の定食の中で一番よく出るのがマトンを使ったジンギスカン定食だと西山は言った。けれども彼が注文したのはレバー炒め定食だった。

「レバー炒め好っきゃねん。食うた後に体が軽くなる感じがするんや。精が付くちゅう感じやなあ」

夏生はジンギスカンもレバー炒めも食べたことがない。残る二つは八宝菜と肉団子の定食だった。この二つなら知っている。肉の文字に惹かれ夏生は肉団子定食に決めた。

「レバーと団子」

おっちゃんが先客に出来上がった料理を出すのを見て西山が注文した。

「レバー炒め、肉団子」

おっちゃんは低い声で復唱しながらプラスチック製の皿を二枚まな板の上に並べた。

二人の注文が通ると、西山は尋ねもしない夏生に話し始めた。天国飯店はおっちゃんとアルバイト生と二人で切り盛りしていること。平日のアルバイトは午後五時から九時までであること。時給は四百五十円であること。アルバイトの日は晩飯を店で食べられること。しかも、ただであることが一番ええんやと西山は自分で言って自分で頷いた。