また、実は僕は、カメラが趣味で、休日にはカメラ機材一式を積み込んだ愛車のマツダCX5で、ぶらりと撮影に出かけていたが、時には、関西空港の駐車場や、高野山の山中で、車中泊することもあった。

そんな時、周りが思いっきり空いているのに、何故か自分のすぐそばに駐車する車があり、違和感を感じていた。今にして思えば、おそらく、尾行中の捜査官だったのだろう。

関空で車中泊など、どんだけ怪しいねん! 

そこでブツの受け渡しでもすると思われたのだろうが、残念なことに、僕は、どこでもいつでも孤独に1人で、誰と接触することもなかった。そのため、業を煮やした捜査官は、一気にパソコンや電子端末を押収して、その履歴を調べ、「組織を一網打尽にしよう」と考えたのであろう。

そう分析すると、合点がいく。

それにしても、[捜索令状]や[逮捕状]は、裁判所が許可を与えて発行するものだが、捜査官から見た[状況証拠]だけで、簡単に申請が通ってしまうのだということに、恐ろしさを感じる。

誰だって、明日は我が身だ。逮捕状を提示され、固まったままのオカンに、黒パンツスーツ姿の女性捜査官が、声をかけた。

「お母さん、持って行く着替えを用意してください。下着と、普通のTシャツとズボンのような物で、紐やゴムが通してある物はダメです。ボタンもダメですから、フード付きのパーカーやジーンズも持って行けません」

オカンは、黙って階段を駆け上り、紙袋に、言われた物を詰めてきた。女性捜査官が中を確認し終えると、無表情ノッポに、

「行くぞ」

と促された。オカンに、

「ラーを頼む」

と声をかけたが、とっさにそれしか思い浮かばなかったのだ。