地下鉄の国会議事堂前駅から数分のところに議員会館がある。第二議員会館前の衛視の脇を抜けて、入り口で、面会証の氏名欄に幸田渉太郎といつもより筆圧を強くペンを走らせた。そして他の必要事項も記した。

受付窓口に面会証を提示すると、議員の部屋に内線電話がされ、来訪者の照会がされる。予め来訪時間を青山議員本人から指示されていたので、窓口での手続きは短時間で済んだ。エレベーターで五階に上がった。降りたホールで青山議員の部屋を確認して、左方向に進んだ。ドアに表示された民自党青山明の議員名を確認して、ドアの前で一呼吸した。

部屋に入るとすぐに議員秘書が出てきたので、名刺を差し出した。すでに隣の部屋で青山議員が待っていた。

「よく来てくれた。早速だが、神奈川フォーラムを主宰している桐陽学園の大川先生から君の推薦を依頼されて、それで引き受けた」

私立学校の理事長でもある大川は若者に政治、経済、国際、防衛や教育問題などを学ばせる神奈川フォーラムを主宰していた。次代を担うこれはと思う人材の発掘に力を注いでいた。

青山議員は、笑みを含んだ顔で渉太郎に席を勧めた。

テレビで観ていたよりもはるかに恰幅が良く、エネルギッシュに見えた。

「それは誠にありがとうございます」

幸田渉太郎は緊張を崩さず答えた。

【前回の記事を読む】オフィスに入った一本の電話。国会議員から来た連絡は渉太郎の所属を確認するもので…