第二章 電話の謎
「私は、会社に迷惑をかけるようなことは一切していません」
「そうかねぇ」
「先ほどの電話で青山先生が何かお尋ねになられたのですか」
と、目に力を込めてきっぱりと訴えた。
「特に、気にかかるようなことは言ってなかったがね」
「まだ何か、気になることでも有るのですか」
「国会議員の先生から君の所属をわざわざ確認してきたものだから、念のためにと思って聞いたまでだ」
このやり取りの後、高杉と渉太郎は別室から自分たちの執務室に戻った。
高杉は、自分より後に秘書室に入ってきた年の若い渉太郎には仕事を教えることがなかった。自分のポジションを危うくする相手への警戒心が強かったからである。
翌日、民自党の青山議員から渉太郎に直接電話が入った。
「青山だ。加田先生の件では動揺せず、なんとしても頑張ってくれ。一度、議員会館に来てくれないか」
「かしこまりました。明日にでもお伺いするようにいたします」
渉太郎は簡潔に応答し、思いにふけるようにして受話器を静かに置いた。
加田議員は和泉、咲山議員と共に加和咲グループという民自党内での政策集団を立ち上げていた。特に、加田は同じ党の現政権に対しては批判的であった。青山は「永田町事情を気にすることなく、ぶれずに行動してほしい」と言外に匂わせた。
高杉は青山議員からの電話が終わるまでの間、ずっと鋭い視線を渉太郎に向けていた。
秘書室には、国会議員、中央官庁の幹部、企業の代表、著名な文化人や芸能人から電話が入ることは日常茶飯にあるため、国会議員本人から直接電話が入ることはさほど特別なことではなかった。
しかし、渉太郎にも青山議員から直々に電話がかかってきた理由が分からなかった。