庭では春彦が作ったブランコが、一陣の風に吹かれて揺れていた。産まれて来るはずだった我が子は、男の子だった。それを知った春彦は、そのブランコを今までコレクションしてきたJリーグのステッカーでいっぱいにしながらむせび泣いた。スポーツ用品店ではサッカーボールや野球のバッドを買いあさり、ブランコの横に用意した大きなおもちゃ箱をいっぱいにしたところで、春彦の心までもが満たされることはなかった。
春彦が視線を向けた先で強い風に煽られて、そのおもちゃ箱の蓋がはためいて中身を露わにしていた。その様子はまるで産まれてくるはずだったその子が、庭に遊びに来ているかのようだった。いかにも男の子らしくブランコを派手に漕いでは、おもちゃ箱からお気に入りを探している様子に春彦の胸は痛んだ。
留まることを知らない、吹き去っていくだけの風のなんと残酷なことだろうか。春彦にとって亡くした痛みは、宿した郁子と決して変わらないものだった。
今では冷や汗までもかき始めた郁子をそっとソファーに座らせると、春彦は楽しそうに揺れるブランコから目を背けるようにそっとカーテンを閉めた。