「ヒロ、お前部活どうするんだ」
お兄ちゃんに訊かれた。
「吹奏楽部にしようかどうしようか迷ってるんだけど」
それまで、自分のしたいことをあんまり口にできなかったけど、このときは素直に言えた。
小学校のとき、ピアノを習っている同級生はいたけど、僕はピアノを習おうなんて考えもしなかった。でも神社のお祭りで、消防署のブラスバンドのパレードを目の前で見送ったとき、金色に光る楽器に触ってみたくてたまらなかった。だから、トランペットを吹けるようになれるかもしれないと思うと、吹奏楽部しか考えられなくなっていた。
「ブラスバンドでしょ。いいじゃない。で、どの楽器やるの?」
お姉ちゃんが割り込んできた。
「まだ入るかどうかわからないけど、やるんだったらトランペットかな」
「いい、いいよそれ。やりなよ、ヒロ君」もう決まったかのようにお姉ちゃんは嬉しそうだった。
「吹けるようになったら、『北の国から』の曲吹いてよ。あれ大好きなんだー」どんどん話が進みそうだから、逆に訊いてみた。
「お兄ちゃんとお姉ちゃんは何部だったの?」
「俺は野球部」
「一か月もやんなかったんでしょ」
「球拾いと声を出すだけだったからさあ」
「お姉ちゃんは?」
「私は背が高かったから、よくバスケット部やバレー部に誘われた。けど、運動神経ないから調理部に入ったんだ。幽霊部員だったけどね……ヒロ君、部活は絶対入った方がいいよ。楽器買ってあげるから。入学祝いよ」
吹奏楽部は仮入部期間が終わって僕を含めて十四人の一年生が残った。男子四人女子十人で、全体的にも女子が多かった。裕ちゃんはサッカー部、光君は美術部に入部して、部活が始まってからは三人揃って帰ることはなくなった。