【物語詩】で届ける不思議な世界
「砂漠に咲く花」
俺は へたりと芝生に腰を下ろした
今頃クビだなと 社員証をいじった
あとで荷物取りに行かなきゃ・・・
俺は膝を抱えこみ うつむいた
子供たちの声と風のざわめきだけが聴こえた
俺は顔を上げ ぼんやり辺りを眺めた
変な話 それはとても心和む光景だった
木々は新緑で きらきらしてて
花たちは 言葉なく静かに揺れている
高層ビルは初夏の光に 白くかすんでた
・・・ボコッ! と頭を殴られた
と思ったら ボールが転がっていた
子供が とてとて駆けてくる
大きな赤い花が 後ろからふりふり
お母さんかな やれやれ
なんだか ここにも
出てけと 言われたみたいだ
俺は 怖がらせないよう
笑顔を作って 子供にボールを渡し
用がありげに 立ち上がった
公園の中を もっと歩いても良いけど
どこ行っても結局 俺の居場所じゃない
会社に戻ろうかと 思ったけれど
クビと言われてるのも 分からない自分を
想像すると 気がなえた
あてもないまま 帰りたくはないけど
でも行く場所が 他になかった
緑が活き活きと 伸しかかる公園を抜け
狭い無機質な アパートに戻った
灰色の壁に それでも少しほっとする
財布と鍵を テーブルに放る
首の社員証も 放り投げ
あれ? とポケットを探る
携帯電話が どこにもなかった
そういや鳴らなかった と今頃気づく
会社かなと思って 気が重くなる
やっぱり 会社に戻らなきゃ
でも今日はいいかなと 思い直す
かけてくるのは 仕事関係だけだし
クビなら もうそのつながりすらない