ぽすっと ベッドに倒れてみる
ここだって いつまでいられるか
家賃が払えなきゃ 追い出される
俺の人生何だったんだと ため息殺す
なんて もろくて薄っぺらな人生なんだ
起きてのろのろと 窓に近づいた
会社の方向に むりやり目をやる
今日じゃなくても 明日には行かなきゃ
・・・と思った俺は 目を見張った
向かいのビルが ツタで覆われていた
今朝まで いやさっきまで
こんなじゃなかったはず
俺は 窓から食い入るように見た
ごく普通の ツタに見える
確かめてみようと 外に出た
街路樹は 昨日より緑を濃くしてた
向かいのビル群は 壁一面ツタ
振り返ったアパートは いつも通り
念のため持ち出した 財布や鍵があるか
確かめて 俺はツタに手を伸ばした
ひやっと 水のような感触が一瞬して
でも 何も手に触れなかった
つるを 引っ張ってみようとしたが
やっぱり何も つかめなかった
伸ばした手は 葉をすりぬけ壁に当たった
やっぱりなと 俺は思った
壁に頭と手をつけ 独り嗤った
額と手には 壁のざらざらした感触
けど皮膚が鼻が耳が 拾ってくる
水気と緑の香りと葉ずれの音を
俺は振り返って 通りを見た
花たちが 何人か歩いてて
苔まみれの車が 通り過ぎてた
辺りはいよいよ 緑が増して
俺のアパートだけが 異彩を放ってた
会社に行こうと 唐突に思った
オフィス街は どう視える
メトロカードを取りに 部屋に戻った
出がけに ふと見た鏡の中の俺は
乾いた笑いを 顔に張りつけていた
花と草の香りがこもる 地下鉄から
地上に出ると そこは巨大な森だった
ツタどころでは なかった
ビルの大きさのままの 巨木が立ち並び
その間の草地を 苔の塊が走る
上空から 木のざわめきが聴こえた
俺は 蟻のように縮んだ気がした
花たちは ごく普通に草地を歩き
大きな大きな幹に開いた穴から
しきりに 出入りをしていた