捜索は、4時間近くにも及び、上の階のチームが、オカンと一緒にリビングに戻ってきた頃には、もう夕方になっていた。迷彩服が、[逮捕状]を提示し、

「5時45分、身柄を拘束します」

と告げた。オカンも僕も、現実感がなく、ただ呆然としていた。ダンボール箱に入れられた郵便物やサプリメント、パソコンやタブレット型端末が、次々と運び出されて行く。

よくテレビニュースで見る光景だ。オカンが、やっと小さな声で、無表情ノッポに尋ねた。

「本当に指定成分が入っていたとして、知らずに発注しただけで罪になるんですか?」

無表情ノッポは、横を向いたまま素っ気なく答えた。

「税関に届いた時点で違法です」

しかし、後日、正確にはそれは違うことがわかった。実際、僕は、輸入の可否の基準や状況、手続きや窓口の所在について、税関や、厚生労働省薬事監査部に、何度も、電話で確認している。探せば、録音も存在しているはずだ。その際、

「基準は特にない」

「事前の申告なり確認なりに対応することはしていない。実際に輸入してもらった際に、税関が検査をして輸入の可否を決定することとなり、薬機法に抵触するおそれがあると判断された際は、厚生労働省に連絡があり、薬監証明を求める必要があるかどうかを判断する、という流れとなる」

「実際に輸入をされたのでなければ、特に対応はできない」

「税関の検査を待っていればよい」

等と、告げられるのみであった。

そしてそれまでの経験から、たとえば、聴診器(医療機器となる)やビーフジャーキー(個人輸入禁止食品)などは、税関で一旦留め置かれ、本人に連絡が来る。そこで、聴診器なら、医師免許を提示するなどの証明をし、ビーフジャーキーは、破棄に同意する。

猫の虫下しを発注した時には、薬監証明書を発行してもらった。いずれも、そうした手続きを取ることで、何の問題もなく済んでいたのである。もちろん、麻薬や覚醒剤などは、全く別次元の話になるが、あくまで[指定成分が含まれているかもしれないサプリメント]だ。

しかも、その指定成分とて、国民に広く公布されているものではなく、捜査官ですら暗記しておらず、おそらく日本国内のほぼ全ての一般の医師・薬剤師も知らないであろうということが現実でもあり、医師免許のある者が、適正な手続きを踏まえて研究や治療目的で輸入することは認められている類いのものだ。

そして普通は、知らずに発注した場合、税関からの連絡があり、先述のように、指示に従えば済むのである。何故、いきなり家宅捜索を受け、身柄を拘束などされるのか。まさに、[青天の霹靂]だった。