「鏡盾……英良様をお守りする盾に御座います。この盾を我が配下と探しに参ります英良様……」
広目天の足下には生き物のような霞が動いており、時折広目天の身体半分が見え隠れする奇妙な雰囲気を英良は感じていたが、それは気のせいでも何でもなく実際に起こってきた。
それは広目天の足元を唸るように幾重にも回り段々具現化してきた。ほどなくして、広目天の背後が煌めき、それは巨大な龍へと変化した。
「神龍に御座います英良様」
「これが龍か」と英良は呟く。
「我の力、神龍を用いて英良様を狙う黒幕を必ずや捕らえてみせます。我等は血滅師の他の情報の記憶を抹消されています。申し訳御座いません。英良様、早速ですが我の神龍の力を使わせて頂けませんか」
「……女……鏑木」
呟いた英良の言葉に広目天は答える。
「鏑木は女を示す名称……血滅師は絶滅したと伝えられる闇の集団の総称で御座います。その者達は危険な呪いを駆使するため、四天王全ての力が必要になるので御座います。英良様何かありましたら何なりと我等に指示を下さい。
それと英良様、神龍に英良様の光力を注いで頂きたいので御座います。一刻も早く黒幕を見つけるために神龍の力を増幅させます。絶大なる力をお持ちの英良様にご協力願います。我に力を与えて下さい。
英良様は『誇龍』とお答え下さい。我が『武龍』と返します。交互に行い力を誇大させるのです。英良様からお願いします」
誇龍、と英良が答えると神龍は光を帯びた。英良と広目天はそれぞれ「誇龍」と「武龍」を唱える。
「英良様の力を受けた神龍は息を吹き返すでしょう!」
英良は目が覚めた。時計を見ると午後二時。すごく長く感じたが二時間くらいしか仮眠をとっていなかった。
身体中の筋肉が痛む。筋トレを行ったように身体中に乳酸がたまったように感じた。英良はマグカップに紅茶のティーバッグを入れ電気ポットからお湯を注いだ。大きくため息をついた。
昨夜沸かした風呂に入り、気持ち良くなりまたうとうと眠気を感じた。風呂から上がり英良はテレビのスイッチを入れニュースを観た。中東では紛争や戦争が今もなお続いている。
人間の心の闇、私利私欲の具現化として今、英良はその現状というものを見ている。光と闇か……英良は一言呟いた。
羅生門
何事もない平凡な日が続いた。晴天の日が続き空はキャンバスにうすい水色の絵の具を引きその上から白い絵の具を加えたような雲があちこちに見える。
英良は仕事が終わりコンビニでいつも通りロング缶のビール二本と野菜サラダを買って帰宅した。ビールを飲んでほろ酔い気分になり、うとうとして寝ても起きてもいない半醒半睡(はんせいはんすい)の状態になり、視界の右側からぼんやりと人影が現れたのを感じた。
英良はすぐに毘沙門天だと分かった。