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⑨EGAMI イムフラ
目が覚めると、ラムカは身動き出来なかった。両腕は縛られ、椅子と固定されていた。何かの生物の乗り物の中らしく、歩く度に強い振動がお腹に伝わっていた。
「起きましたかな? この陸ガメは足が6本あり、かなり響きますからね。でも、よく眠っていましたね……。後少しで地の国に着きますよ」
そうイムフラが後ろの座席から呟いた。ラムカは、いつの間にか気を失っていた。見覚えのない少年と意識が交じり合ったような感覚があったが、あの少年は誰だったのか? 考えると、意識が朦朧とした為、別の事に意識を向けた。
「そうだ!! あの後、トミ婆ちゃんはどうなったんだ!!」
ラムカは思い出したように、イムフラに聞くと彼は空謝りした。
「あぁー、あのお婆さんの事ですか、すまなかったですね……。命に別状はありません……。あの方は死にませんから心配いりませんよ。ただ、念の為あの方からあなたの記憶は抜かせてもらいましたが……」
ラムカは、イムフラを信じる事は出来なかったが、トミの生命力は信じる事が出来た。
(生きていてよかった)ラムカは心からそう思うと、疑問が浮かんだ。
「何故? 私を……」
「あなたは……、とても大事な記憶を受け取ったようで。しかし……、何処かへやったのか? それとも今も隠しているのやら……? 勝手な事をしてすみませんが、実は……、先程あなたが眠っている間に頭の中を調べさせてもらいました。ただ……、見付けられませんでしたが……」
「何を?」
「記憶の記憶と言うものです……。隠しているなら出してくれると助かるのですがね……」
イムフラは、彼女に詰め寄ったが、ラムカは記憶の記憶が何なのか本当に分からなかった。
あの島で、幼い頃にトミに育てられたが、島に来る以前の記憶がなく、何処からどうやって来たのかも分からなかった。トミの話では雲海の雲が多い日に、大きなエイの背の上で眠っていて、それを島の人達に助けられたようだった。
幼い頃の記憶はなかったが、記憶を持った物達の気持ちは手に取るように分かったり、風の声も聞こえ、天候を読むのに長けていたので、トミはそれをよく喜んでいた。そんな事を思い出していると涙が出ていた。
「でも、良かった……。生きていて……」