通り沿いの広場には、すでにかなりの数の人々が集まっていた。そしてみな、緊張気味に開場待ちをしていた。

人垣の向こうを見れば、奥を隠すように白い幕が垂らされている。その手前で、商人ふうの男が、

「ようお越しやすぅー」と、媚びるように連呼していた。

なんとなく胡散(うさん)臭そうで、万条は近付くのをためらった。

そのまま立ち止まって見ていると、呼び込みの男が遠慮気味に言った。

「お代はお一人、十五銭となっとりますぅー」やはり、寺銭を取るらしい。

人体解剖は徳川時代、杉田玄白と前野良沢によって実施されたものが有名だ。明和八年(一七七一年)、彼らは江戸の千寿骨ヶ原(せんじゅこつがはら)で死体の腑分けを行い、そのさい他の町医者にも見学させた。

だがもちろん、無償だったという。寺銭を取るなど、珍品奇獣の見世物小屋興行と変わらない。

万条が思わず顔を歪めると、そのとき聞き覚えのある声がした。

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