「光?」

御意(ぎょい)

広目天は応える。

英良は広目天を見つめた。

「お答えになるか分かりませんが……我等仏は本来、人界の人間とは言葉を交わせないのが事実で御座います」

広目天が説明した。

「しかし、峠原様は放つ光の力が大きいため、我等の言葉は峠原様の光に乗せることができるので御座います。今は、人界でいう会話という形で意思疎通を図っているのではなく、峠原様の霊態に我等の意志を送り込んでいるので御座います。全ての人間は魂を持っております。その魂に語り掛けていると言った方が分かり易いかと思います」

「霊態……魂……」

「御意。我等は峠原様の夢の中にも度々出ておりましたが……記憶には御座いませぬか?」

記憶にない、と英良は言う。  

「峠原様は我等には、光体として映ることは既に申し上げました。それは要するに両刃の剣で御座います。その光は生かす力もあり、一方では破滅させる力も有しているので御座います。それ故、闇の力は峠原様を狙うので御座います」

毘沙門天は説明する。

「現在の峠原様の光は大きく我等の目には映っております。もしこの光が小さくなると、人界を覆う闇には抗しきれなくなるのは必至のことに御座います」

「よく分かりませんが、貴方方は私と会話ができると……?」

「御意」

毘沙門天が答えたのだが、英良は奇妙なことに気が付いた……毘沙門天の口が動かないのである。いつか写真で見たことがある……あの毘沙門天の顔だったが、言葉は脳内に入ってくるが口の動きが見えなかった。

「それと峠原様。実はここにいる我等二天王の他にも仏がおります。我等、毘沙門天と我広目天。それに持国天(じこくてん)増長天(ぞうちょうてん)に御座います」

「……持国天、増長天?」

「御意に御座います。人界では我等のことを四天王と呼んでおります」

広目天の声が脳内に届く。

「その四天王総て鏑木に操られ、光ある者への刺客とされたので御座います」

広目天は続ける。

「我等二天王は、光を取り戻し闇の手から解放されましたが、持国天と増長天はまだ、闇の手中におります。どうか貴方様の光力で持国天と増長天を闇からお救い下さりませ」

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