「……貴方様は?」と毘沙門天が英良に問い掛けた。

英良は黙って見つめていた。

「英良さん……毘沙門天、広目天と契りを交わして下さい……二仏は、英良さんを護り臣下となるでしょう!これは総て観音様のお言葉でもあるのです」

美姫が諫める。

「私は峠原英良という者です」英良は陳腐ともいえる自己紹介をぎこちない声で言った。

まだ、自分の声でないようだ。

「峠原英良様……」

毘沙門手は英良を見つめる。英良は軽く頷く。

「大丈夫でしたか? 何故、貴方方が?」

英良は困惑して聞いた。何を言って良いものか、何をどのように聞けば良いのか、考えが混乱していた。毘沙門天は英良の心中を読み答える。

「我等を闇の力より開放して頂き、お礼を申し上げたい。このままでは我等諸共、闇の配下となるところ。貴方様の力で我等も光を取り戻すことができました」

毘沙門天は続ける。

「人界では闇の使い手が、幾重にも闇の壁を築いております。漆黒の闇、それを操るものは地獄から蘇りし女とその臣下……その者達が今も着々と古代の闇を張り巡らしております」

広目天も英良を見つめている。

「その女は、悪魔に心を売り、もはや人間の感情は持っておりません。その力には我等では対抗することができませんでした……」

「その女の正体は分かっているのですか?」

英良がやっと自分の言葉で言うと

「その女は人界では人間の女の姿に変えています。その女の名は鏑木(てきぎ)と言っておりました……恐るべき闇の使い手に御座います。然し、人間の女一人の力にしては強すぎるかと。背後にはもっと大きなものの存在を感じます」と広目天は答えた。

「何故私を?」

「それは峠原様の持ち得る光で御座います」