『変化するコミュニティ』

……マジか、あの後24時間も寝てたことになるのか。寝すぎだろ、これが事実なら一日半くらいはもう寝なくてもいいか。でも、その異常な睡眠時間の原因の目星はたつ。恐らくあの力だろうか。不意に今もなお利き腕に取り付けてあったブレスレットを見つめる。あの時はこれが光って、その姿になって、力を使った……ってことになる。

「(だとしたら、あの時の力は一体何なんだ?)」

「ルナ姉は……、あ、いや、いい。何でもない」

「何か知っているかも……」

と、ブレスレットをくれた本人にあの力の正体を聞こうとしたが、今それを聞くのは無粋だと察し、その言葉は実際に俺の口から漏れることは無かった。

「……ねえ、最後に一つだけ聞かせて。ルナ姉はホントに、大丈夫なんだよね?」

「私は、大丈夫。レッカ君に助けてもらったから……」

ぼそりと呟くように言う。それでもその言葉を真に受け止め、疑ったりはしなかった。事実、俺は彼女を助けるために体を張って、その結果、蘇生する所をおぼろげではあるもののちゃんと見届けたのだから……。

「分かった。じゃあ俺、ちょっと外の空気吸ってくるわ」

ルナ姉の容体が良いなら、ひとまず安心だ。病院にいるならば、また憑依生命体が現れない限り危険はないだろう。外に出た直後、太陽の日差しが眩しく目に染み、理由もなく

「んー!」

と両手を大きく伸ばす。一日ぶりの外だ。考えてみれば、一日中ずっと病室の中にいたんだよな。基本的にアウトドア派なので難儀なことをした。

「……おまえが西条レッカ君ですか?」

正面玄関にある自動ドアの前に突っ立っていると、不意に後方から青年のような口ぶりの下手な敬語が聞こえた。

「!」

咄嗟に聞こえなかったフリで踵を返し、顔面蒼白一歩手前くらいの表情(かお)をしながら病院内へ戻ろうとしたが、彼は既に俺の名前を知っており、声の聞き取り具合から互いの距離があまり離れてないということが分かる。だったらそのまま聞き流すことも出来ない上、そもそもそんな奴を野放しにも出来ない。

「だ……、だ、誰ですか?」

いきなり至近距離にいる彼に恐怖しながら、顔を向け、口を動かした。心臓バクバクだ。

「あ、急にごめんな、大丈夫だ。オレは別に怪しい奴じゃないよ。ちょっと話したいんだけど、今時間あるか?」

彼は俺の「誰?」という疑問をことごとく無視し、表情豊かにペラペラと喋った。容姿は大学生のようで私服。上は黒のTシャツに鼠色のジャケットを羽織り、迷彩柄のズボンを穿いていた。どことなく爽やかな顔つきで、薄い金髪の髪色が目を引く。俺と彼の身長差は30cm程あり、少し見上げるように目線を上げる。

「ああ、えと、多分、大丈夫……です」

「?なら、立ち話もなんだから、そこのベンチで話そうぜ」

「は、はい……」

しどろもどろで口から出た言葉は、何とか会話として成立したようだ。謎の青年Aに促されるまま、俺は数十メートル先の木製の小さなベンチに行き、途中、彼はベンチまであと数メートルという所で俺を先に行かせ、自販機で缶コーヒーと俺にはカフェオレを買ってやってきた。

「ほい。嫌いじゃなかったか?」

そう言い、片手で持った缶のカフェオレを手渡してくる。俺はそれを

「あ、ありがとうございます。嫌い……じゃ、ないです」

とか答え、彼が早速缶コーヒーのプルタブを開けゴクゴクと飲んでいるのを見て、同じように一口、二口、喉に通した。

「っと、初めましてだな、オレの名前は『衆院(しゅういん)ソル』ってんだ。そこの久禮総合経済大学の経済学部、一年生。よろしくな。皆からは『院さん』って呼ばれてるから、そう呼んでくれ」