実際、私の登り方は他の人とかなり違っていて、1本の長い杖を使い、普通なら大変な路面の悪い斜面を相当な速さで登ったり、下りたりするのです。登る際は杖を1mも先に当てがって、それに引っ張ってもらう様にしてポーンと、下りる際は反対にポーンと飛び降りる様にする。はたから見るとリズミカルに、まるで宙を飛んでいるみたいだそうで、いつぞやは大学の山岳部の皆さんをそんな調子でひょいひょい追い越し、

「おっさん何でそんな速いねん」

と驚かれ、また北海道のある山小屋のご主人には

「なにわの天狗だなぁ」

とありがたい異名を頂いた事もあります。

実は私は、登山や長距離の歩行に向かないといわれる偏平足なのですが、実際そんなふうにするとほとんど疲れません。山登りではない通常の歩行でも、土踏まずをべったり地面に付ける事なく、脚や膝よりも、腰で歩く様に意識する――専門家が“モンキーウォーク”と呼ぶこの歩き方が無意識に身に付いていたおかげで、後のへんろ旅も非常に助かりました。

そのあたりの歩き方、体の使い方というのも、子ども時代に山の中の獣道を走り回ったおかげで、自然に身に付いていたのかと思うと何とも不思議な気がします。

登り始めの時間も早く、まだ暗いうちに登山口へ車で行き、日の出と共に登山開始。装備も極力軽くする様に、シャツ一枚にしても重さを量って買ったり、ザックも軽量かつ効率良く物が入る品を選んだり、食事も朝夕しっかりと摂って、その分、昼食はごく軽くしか持っていきません。

もちろん遭難時に備えて、非常用の最低限の栄養補給はザックに入れていましたが、おおまかにいえば昼に食べるカステラ数切れと、水とタオル……水については、必要最低限だけを持って、あとは登山道に近い水場の位置、山小屋の場所、そうした事を徹底して頭に入れてから出発するわけです。

こうしたやり方は人にお勧めはしませんし、特に初心者の方は必要十分な装備をして下さい。