彼女を都会へ連れて行くことはできないと思った彼は、なんの躊躇(ちゅうちょ)をすることもなく、都会での生活を捨てて、村落に入ることを決心したのでした。

身寄りもなく、失うものが何もなかった彼は、希望だけを信じて、インディアンの村で永住する気持ちで村落へ入りました。

ふたりは村中から祝福を受け、晴れて、新しい生活が始まりました。

自然とともに、動物とともに、植物とともに、すべての命を尊いものとして受け入れ、お互いによりよく生きる村での生活が、彼には心底うれしくて、ありがたい日常の営みとなったようです。そこでの暮らしは彼にとって、何ものにも代え難いくらいの宝物のような、本当に幸せな日々となりました。

トウモロコシの季節はとりわけ好きで、意外と手先が器用だった彼はアクセサリー作りにも励み、女性や子どもたちの喜ぶ顔を見るのが、何よりも励みになっていました。村の仲間の一員となり、心残すことなく生涯を終えることができたようです。

けれども、妻となった彼女には唯一、心残りなことがありました。それは、ふたりにとっての子どもができなかったこと。そのことだけが、彼女には寂しさとして物足りなかったようです。

彼女の周囲には、いつも、誰かしらの可愛い子どもたちがいたようですが、我が子へ抱く強い愛情への憧れがあったのでしょうか。自分たちの子を授からなかった寂しさを、夫や誰かに漏らすことはしなかったようですが、胸の奥に静かに収めていたと思われます。