第一章 劇場

サリムは劇場の出口を少し出てタクシーを掴まえ、先に走っている救急車の後を追いかけるように指示をした。タクシードライバーは何か有ったのか? と聞いてきたが知らん顔をして無視するとドライバーは肩をすくめ救急車の後を走りそんなに劇場と離れていない病院へ入った。

サリムは運転手に金を渡し、救急車が何台も集まっている傍の非常用入口に近づくと劇場で王族のテーブルへ飛び込んだやつと同じテーブルに居た東洋人が、座っている看護師に話しながら、警察官とも受け答えし三人で話しているのが見えた。背を向けて足に怪我をしている風を装い、少しずつ近づきながら見ると看護師が聞き取ってメモったシートを後ろのボードにピンで貼り付けた。

其処には沢山のシートが貼り付けて有った。東洋人の二人は警察官と共に離れて行った。サリムは看護師に近づき少し足を引きずりながら看護師へ伝えた。

「劇場で一緒にいた友人が此処に連れて来られたと思うのだが……」

と尋ねるように話すと看護師は、後ろのボードを指で示し

「此処に連れて来られた人は後ろのボードにピン留めされているシートへ記載されています。今忙しいので自分でボードを見て探して下さい」

と言った。サリムはそのまま直ぐ後ろへ近づくと何人かが同じようにボードに貼られたシートを目で追っていた。サリムも同じようにシートを探す振りをしてさっき貼りつけた場所を正確に思い出し貼られているシートを読んだ。

「病室;203 名前;ショウ カツ 男29 住所;ピカデリーホテル 505
連絡先;tetra continents corporation」

サリムは、読んだ中身を復唱ししっかり覚えたと念じ、その場を離れた。

サリムは病院の中に有る電話ボックスからファイサルへ連絡をして情報を伝えた。電話に出たファイサルは、

「ピカデリーホテルの方はこっちで洗うから残ってやつの状況を確かめろ!」

と指示した。病院は未だ警察官が何人か残っていて騒々しい状況でとても入院している処まで入れそうにない……少し周りが落ち着くまで待とうと考え、通りに出て未だ開いている店でフィッシュ&チップスと水を買い病院脇のコーナー公園のベンチに座った。

ホッとしながら買ったチップスを食べ始めた。食べると思い切り腹が空いていて一気に食べ、今日一日の動きを思い浮かべながら目を閉じた。