第二章 ピカデリーホテル
翔は尿意を催して目を開けた。自分が何処に居るのか全く分からずに寝たまま首を回すと左耳の激しい痛みが頭を貫き、一瞬で今迄の状況がフラッシュバックした。しかしトイレに入った迄は覚えているが何故ベッドの上で寝ているか不思議に思え、痛む左耳を右手で触ろうとすると腕に針が刺さっていて、その先に透明の液体が少し入ったビンが逆さまにぶら下がっていた。
翔は針を抜いて耳を触ると少し小さめの柔らかい止血パッドが大きい防水テープで押さえられていた。ぐっすり寝たので気分はすっきりし、痛みも痺れも少し和らいでいた。足を動かすと何ヶ所か痛く感じ、ジャンプした時にテーブルの角や椅子で打った所が今頃痛み出したようだと思い、右の方を見るとベッドが幾つも並び皆静かに寝ていた。
翔はトイレに行こうとゆっくりと足を下ろし、うす暗い中を扉の方へ向かった。扉の脇に座っていたナースが振り向き何か言おうとした時、翔が「トイレ!」と小さい声で言うとナースが小さく頷き、出て右サイドの方と指で示し、立って扉を開けてくれた。
翔はトイレで用を足し鏡の前に立ったら前に見た時よりも格段に良くなっていて、顔つやは酷いがやや青黒いだけで点滴が効いたのかすっきりしていた。トイレを出て戻ってくると扉の脇に居たナースが
「少し元気になったわね。ではシップを取り替えましょう!」
と翔を先に行かせ、翔の太い右手を少し支えるようにしながらベッドへ戻らせた。
手に持っていた患者用の上着を脇に置くと、先ず翔の耳の防水テープと止血パッドを優しくゆっくり剥がし始めた。痛みは強くないが耳が重く感じられ少し腫れているようだ。ナースは
「耳の下半分が無くなっているけれど綺麗に縫ってあるので血が止まっている。腫れが引く迄はこの化膿止めの止血パッドを毎日取り替えるように! 一週間位で収まると思うけど……」
と言って止血パッドを貼り替えた。そしてゆっくりと手術上着を左手から丁寧に脱がして肩の傷を確認し、同じように少し腫れていたが綺麗に縫われているようで新しい止血パッドを貼りつけた。