第一章　劇場

西田に肩を借りた翔と高垣は出口を出た処で警察官に捉まり、翔の真っ赤な上半身を見て直ぐ救急車の方へ押し出した。

翔は押されて救急車にぶつかりそうになり、飛び出て来た看護師が翔を見て吃驚し直ぐ後ろのドアを開けて乗るように指示しそのまま乗り込んだ。既に救急ベッドには足が変に曲がって目をつぶり苦しそうな顔をした若い男が寝ていた。

救急車は会場を出て病院へ向けて走り出した。翔は、脇の補助椅子にもたれて座り、血が流れ出る耳の手当てをしてくれている看護師に様子を聞いた。

「耳が半分欠けている。綺麗に欠けているので病院で縫って止血さえすれば大事にはならないでしょう！　今止血パッドと化膿止め、痛み止めの注射をするから。肩は少しえぐれているがサルファ剤をたっぷりかけて、大判の止血パッドで押さえたので心配ない。少し聞きづらいのと痺れが当分続くかも知れない！　病院で再チェックして下さい」と言って前の方へ行った。

翔は、ラグビーで鎖骨が折れ腕の骨も折れて飛び出した大怪我を前にした事が有ったので、この程度の怪我は殆ど心配せず気にもならなかった。其れよりも出張する直前に日本で押さえたウエールズとスコットランド戦のラグビーの試合が見られるか気になっていた。その試合は明日の日曜日なので何としても見たいが、そればかりは分からなかった。

翔を送り出した高垣と西田は警官に捉まって質問攻めに合っていた。警官は「怪我人は沢山出たけれど、未だ分からないが……亡くなった人の連絡が入っていないのはラッキーだ！　一体何が起こったのか教えて頂けませんか？」と聞いてきた。

高垣と西田は「さっき救急車に乗って行った仲間の翔にテーブルと共に突き飛ばされ、倒れた時に凄まじい銃声が鳴り響き頭を下げて転がっていた」と話した。

「何度も同じ事を言っていますが、銃声の音を聞いただけで他はどうなったのか全く分からない」と答えた。

「ではミスター翔に聞くしかないな!! 病院へ行こう！」とそう言って、警官は高垣と西田から離れて行った。その横をストレッチャーも何もかもが血だらけで、真っ赤に染まった止血パッドを首に付けた王族のボディガードの一人が、酸素吸入マスクを押し付けられながら走るように救急車のバンの中へ消えて行った。