市内の病院に翔が着いた時、先に着いた救急車が何台も停まっていて看護師や救急隊員が走り回っていた。
直ぐ翔の救急車のドアが開き看護師が顔を見せ、翔を見ると「少し待って!」と言って、車の中で真っ青になって横たわっていた無言の男性をストレッチャーに乗せると直ぐ非常搬入口の方へ押して行った。
其れを見て翔はふらふらと落ちるように倒れながら降りた。そして病院の入口ホールの方へ左肩を下げてとぼとぼ歩いて行った。ホールの中は混雑していたが翔が入って行くと大きな耳当て止血パッドに赤黒く大きく血のシミになったシャツを見て、周りが吃驚した顔をしている。
翔はトイレを見つけ中へ滑り込み用を足して鏡を覗いて吃驚した、鏡に映っているのは髪が血で固まり浮浪者のようになって、顔の左半分近くまで止血パッドがはみ出した酷い顔だった。左腕から下は腰まで赤黒く大きいシミが広がっていて、翔は本当に交通事故に遭った浮浪者だ!と思った。
先ず止血パッドに触れないよう顔に右手で少しずつ水を掛けて流し、ややすっきりするとゆっくりとシャツを脱ごうと左の肩を動かした途端激痛が身体全体を襲いその場に崩れ落ちて意識を失った。
翔を連れて行こうとした看護師が、救急車の中を覗くと翔が居ないのを見て不思議に思い周りを見た。するとホールの方に血の跡が少し見え、走ってホールの扉を開けた。
すると其処に居たみんながトイレの方を指さしたので直ぐ行き、トイレのドアを押し開けようとしたが何かに当たって中々開かない。看護師は思い切り足腰で押し開け、広げた隙間から滑り込むと床にぼろ切れのような形でうずくまって倒れている男を見つけた。
直ぐハンドトーキーでストレッチャーを呼び、倒れている翔を少し横に移動させ扉が大きく開くようにした。其処へ病院のストレッチャーが到着し看護師二人で気を失った翔をストレッチャーに乱暴に乗せてホールから押し出し、救急車の間を抜け非常用入口の方へ向かった。入口に居た警察官がストレッチャーを止めたが翔の状況を見ると直ぐ手をヒラヒラさせて奥へ急げと道を開けた。