第一章 劇場

部屋に戻った副大臣カラムは部屋のカウチにもたれぐったりしていた。アラブ人にしては珍しく髭を綺麗に剃った官僚風の顔に未だ怯えが浮かんでいる、今回の訪問の責任者として窓から見えるロンドン名物ビッグベンを見ながら何度も、本当に良かった、王子と王女が無事で! 心からそう思い威儀を正して、神に祈り感謝すると同時に二人を襲ったやつらを必ず探し出し、『目には目を歯には歯を!!』の報いを身をもって知る事になるだろう! 

と誓った。

突然、ノックが鳴り吃驚して

「誰だ?」

と声を荒げた。そうするとドアが開き王子お付きの女性が入ってきた。大臣は直ぐカウチから立ち上がり近くの椅子の方へ行こうとしたら女性が手で押し止めて

「副大臣、王子様がお呼びです。直ぐ王子様の処へいらして下さい」

と話した。副大臣カラムは頷くと女性へ

「ご容態は?」

と尋ねると、

「お疲れですが落ち着いておられます」

と答えが返ってきた。副大臣は直ぐ部屋を出て奥の角の王子のドアをノックした。すると待っていたように女性が大きくドアを開けカラムを招き入れた。シュマーグを被って顔の小さい王子はシルクの上下の部屋着の上に豪華なガウンを羽織って応接テーブルの椅子に落ち着いて座っていた。青白い顔が今日の出来事の大変さを物語っていた。

王子は前に座るように指示されたが、カラムは近く迄行って王子の傍の足置き台のようなものを王子より少し離して座ろうとした。が、直ぐ王子が近くへ座るように手招きをしたのを受けて台を少し引っ張って王子の斜め前に座った。

カラムが

「ご加減は?」

と尋ねると王子は首を軽く振り、

「一緒に倒れた男の方はどうなった?」

と聞いた、カラムは

「一緒に倒れた男?」

と当惑した顔をしておうむ返しに尋ねると、王子が

「私と王女を助けてくれた男の方だ!」

とボソッと語った。カラムは頭が混乱し

「助けた?」

と又聞き直し、直ぐ思い出し

「王子様と王女様の上に重なるように襲った男ですか?」

と尋ねた。王子は吃驚した顔をして目を丸くし、

「あの方はご自分を盾にして私と王女を助けてくれたのだ。銃声が収まった後、床に落ちた時『大丈夫か?』と聞いてくれた。私と王女は小さく頷いたんだ。そうすると血だらけの顔が優しく笑った。私達を確認した後目をつぶった」

カラムは王子の話を聞いて自分が間違っていた事に気づいた。

「ボディガードを襲った!」

と言おうとしたら途中で王子が大声で、

「違う!!」

と泣きそうな悲しい目をして、カラムに直ぐ