ラジオ体操を終え、我々は朝九時に二言邸に集合。愛猫ペッポに、小型カメラを仕込んだ毛糸の帽子を被せ、野に放ちます。その間我々は、自転車で寄鳥邸へ。なぜ移動するかというと、カメラの映像を映す媒体が、彼女の家のテレビだからです。便・不便はさておき、最新機器を気前よく貸してくれた彼女には、頭が上がりません。
ペッポはよく肥えた白いネコで、一挙手一投足が鈍重でした。我々が移動する十五分の間、二言邸の庭先で、まったり日向ぼっこを敢行。風を切るスピーディーな映像を期待していた私は、正直、拍子ぬけです。
「マズイわ、このままじゃバッテリーが……」
心配そうにみどりがいいました。彼女いわく、カメラのバッテリーは長くて二時間しか持たないそうです。すでに十五分経過しているので、残り一時間四十五分。
我々はモニター越しに「起きて、起きてったら!」と煽り立てます。意思が通じたのか、彼はアクビし、ユラリと歩きだしました。
柵の下や塀の上をのっそり渡り、近所の公園へ。ベンチでしゃべくる高校生のお姉さん方にまとわりつき「かぁいい! かぁいい!」と持て囃されました。ローアングルから見上げるものですから、スカートの下の秘所が……見えません。私の背後から、あまりが「見ちゃダメ!」と目隠ししたのです。
その後、草むらを通り、神社の境内へ。道なき道を練り歩くため、地図に線を引くのも容易ではありません。人間が定めた道路や交通規制などどこ吹く風。「俺が法律だ」といわんばかりに、わが道を突き進みます。
私はいつもの悪い癖で、妙なことを想像しました。
《ペッポが何気なく家の窓をのぞくと、中で凶悪事件が起こっているとしたらどうだろう? 目出し帽を被った男が一家をロープでふん縛り、家内を物色しているとか、漆黒のローブに身を包んだ邪教集団が、悪魔崇拝の儀式を行っているとか。彼らは細心の注意を払ってことに及んでいるが、まさかネコと僕らの視覚がシンクロしているとは思うまい》
事実は小説より奇なり。これから起こる出来事は、私の想像を大きく上回るものでした。
境内にはペッポの他に、ノラが一匹。神主のおじいさんから、ツナ缶をごちそうになっていました。ペッポが来ますと、神主さんは「お前さんにもわけてやろう」と、カンヅメを取りに戻ります。
周囲に人はおりません。ツナを食べていたノラは、うやうやしくペッポにあいさつしました。「ニャア」でも「ミャ~ゴ」でもなく、礼儀正しい日本語で。
「おはようございます、素敵な帽子ですね」
「ウム、ありがとう」
ノラは立ち去り、神主さんが戻ったところで、バッテリー切れ。
ネコはハタチを超すと、人語を解するといいます。ペッポは今年で十七歳。早熟ながら、素養は充分。私はこの大ニュースをぜひ書き記したかったのですが、常識的観点から鑑み、散歩コースのみの発表と相成りました。