縁の下の知力持ち
自由研究(小学六年生編)
九月上旬。
学校の廊下に、生徒らによる夏休みの自由研究が張り出されました。動植物の観察日誌ですとか、手作り料理十選ですとか、わんこそば百杯への道ですとか。
私は、三人の野球仲間と共に、町内のパン屋というパン屋からメロンパンを買いこみ、どこのお店が一番うまいか、食べ比べを実施。公平を期すため……というより、小学生の懐事情を考慮し、コンビニは対象外。
抹茶メロンパン、クリームメロンパンといった派生品もNG。チェーン店での購入は一店舗に限る。などなど、細かいルールを設け、全十七のメロンパンを試食しました。見た目、手触り、香り、食感、味と、おのおの多角的な感想を綴ります。
四日かけて行われた頂上決戦。勝者は満場一致で決まりました。商店街の離れに位置する『おもいでパン』というお店です。パブやキャバレーや××××といった、いわゆる大人のお店が連立する中、安心安全の全年齢を謳い、一際異彩を放っています。
場所柄ゆえ、メインとなる購買層は訪れず、場所柄ゆえ、ヤニとお酒の臭いがたちこめ、店内の清潔さに反し「陰気で汚い」という、飲食店にあるまじき酷評を頂戴。繁盛とは縁がなさそうですが、味はピカイチ。
隠れた名店と呼ぶにふさわしい穴場です。今回の企画で、汚名を少しでも返上できれば、製作者として嬉しい限りです。
廊下に張り出された自由研究が、のきなみ撤去された頃。深刻なメロンパン中毒に陥った私は、至福を求め、単身おもいでパンへ。山と積まれたブツから、コレというのを一つ買い、自宅にて頬張りますと……。
「マズイ!」
反射的に吐き出してしまいました。ジャリジャリしていて、妙にしょっ辛い。砂糖と塩を入れ間違えたのでしょう。私は悲しさで胸がいっぱいになり、空腹で胃がしぼみました。なんにせよ、今日は百五十円の損失です。
翌日、このことを共同研究者の野球仲間たちに伝えますと、彼らも研究後、同様の厄災に見舞われたそうです。つまりマズかったのは、私の時だけではなかったのです。
メンバーの中に、好奇心旺盛な子が一人いて、原因を探るべく、近隣住民に聞き込みを行いました。結果、おもいでパンは巷じゃ「ゲロマズ」で通っていることが判明。
開店当初は至極美味で、大層な賑わいを見せましたが、一年もせぬ内に店主の奥さんが他界し、味が激変。悲嘆に暮れた店主は、すっかりパン作りの情熱を失ってしまいました。
「彼は現在、三歳の女の子を養いつつ、一人で休み休みお店を経営している。おもいでパンの『おもいで』とは、亡くなった奥さんを指しているんだなァ」