縁の下の知力持ち
自由研究(小学四年生編)
世の中には二種類の人間がいます。夏休みの宿題を計画的にやる者と、最終日にまとめてやる者です。私は……オホン! 私は前者です。算数のプリントも、ペットボトルを使った工作も、読書感想文も、七月中にカタをつけ、刹那主義の友達から、嫉妬と羨望の眼差しを一身に向けられました。が、宿題はコレだけではありません。四年生から追加された、自由研究が残っています。
一体全体、どこからどこまでが自由なのでしょう? 友達に聞いてみますと、ある者は格闘ゲームの隠しボス必勝法といい、ある者は北海道旅行記といい、ある者はシソの苗に水ではなくウーロン茶を与え、脂肪燃焼の効果を付加するのだといいました。まさしくピンからキリまで。省エネ思考の私は、夢の研究にしました。三つの課題を設け、傾向と対策を練ります。
一・夢で頬をつねっても痛くないって本当?
二・トイレの夢を見た際のオネショ対策。
三・追われる夢を見た際の追跡者撃退法。
カンの鋭い方は、企画の穴に気づかれたことでしょう。夢は狙って見られやしません。よしんば見られたとしても、目を覚ました途端、記憶がシャボン玉のように霧散してしまいます。ですが、もしすでに研究済みだとしたら? 私は長年、これらの悪夢にうなされ、布団に水彩画を描いてきました。対処法なら心得ています。
第一の課題。頬をつねっても痛くはありませんが、強くすると徐々にヒリつきます。夢を夢と思わせぬよう、脳が巧妙なリアリティを提供するのですね。
第二の課題。オネショは心がけ次第で克服可能です。夢の中でトイレに駆け込み、噴水発射の準備をしますと、ある違和感を覚えます。お召し物を脱いだのに、現実では穿いた感覚が残っているのです。そう、脱いだのは脳のまやかし。チョロロとやりたい気持ちをおさえ、目を覚ましましょう。
ときおり『目覚めた夢』なる二重の罠が発動しますが、心乱されず、背中に気を配ってください。布団の中で寝そべっている実感を得られるハズです。
第三の課題。これが曲者です。追跡者は手強い。夢と知り、まぶたを上下させるも、貝のように閉じたきり。やがてキャツに取っ捕まり、退場の憂き目に遭わされるのです。この手の夢は、精神的に追いつめられた時に見るとされています。逃げ切れれば運気回復、捕まれば対決の時を意味するそうです。