ときに私は、親の意向で、さして興味のない剣道の教室に、イヤイヤ通っていました。練習は厳しく、師範はおっかなく、竹刀でぶったりぶたれたりするのも、好きではありませんでした。悪夢の源流は、ここに流れています。加えて、生粋のホラー好き。死人が多発するミステリードラマや、再現VTRがやたらおそろしい心霊番組など、怖いと知りつつ、テレビの引力に吸い寄せられてしまうのでした。

根本的な解決法は、剣道と縁を切り、ホラーから距離を置くこと。しかし、分相応にノーテンキな私は、そこまで頭が回りません。

ある晩、またしても例の夢を見ました。正体不明の奇っ怪人が、嬉々として私を追い回すのです。普段は逃げの一手ですが、私はいい加減、遁走にウンザリしていました。

「いい気になっちゃってもう!」

私は足を止め、敵と対峙しました。これは夢、夢なのです。逃げるも戦うも、当事者の胸一つ。倒すべきは、自分自身の弱さ。私は、当時マンガで流行っていた大技を繰り出しました。

「かめはめ波!!」

両手から放たれたビーム状の気功波が、瞬く間に悪を空の彼方へ吹き飛ばします。

「ブルルァアア!!」

怪人は断末魔の叫びを上げ、宇宙の塵に。※結論・追跡者は退治することができる。感極まった私は、その場で小躍りしました。読者の皆さん、追跡者を撃退したらば、迷わず目を覚ますのをオススメします。討伐後、くれぐれもこう思わぬように。

《まさか復活なんかしないよな?》

悪夢は恐怖心につけこみ、どこまでも増殖します。文字通り、どこまでも。一人から二人、二人から四人、やがて視界いっぱいに……。結局、第三の課題はクリアなりませんでした。もし追跡者を上手く撃退された方がいらっしゃれば、ご一報を。全国の悪夢にさいなまれる人々の、心強い光明となりましょう。

余談になりますが、追跡者と戦わず、共存の道を選ぶこともできます。敵意を捨て、友好の意を示しますと、意外にも相手は心を開いてくれます。真の平和は争いではなく、相互理解によって生まれる好例でしょう。——右記の内容を新聞記事のようにまとめ、学校に提出しました。反応は上々。

「俺にもこんな経験ある!」「私にも!」

と、多数の共感をいただきました。悪夢の一端を担った剣道は、両親に相談し、四年生の終わりにやめさせてもらいました。

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