「(……確かに今の俺はおかしい。このまま外に出たら頭が動転し、下手をしたら交番行きかも)」
しかし、それもこれも全てあの悲劇のせいであって、俺の挙動がただおかしいだけなんてことはない。それにこれに関しては俺よりもルナ姉の方がよく分かっていることだ。それをまるで無かったかのように語る彼女は、奇妙だ。
「大丈夫?」
「あ、ああ……」
待て、落ち着け。何で俺の方が心配されているんだ。あの時、一番ヤバかったのはルナ姉だろう? 俺は大丈夫だ。一旦、落ち着こう。一度冷静になろうと、腰をかけたままゆっくり大きく深呼吸をする。その後、少し落ち着きを取り戻し、あることに気が付いた。
「(……いつものルナ姉の部屋じゃない)」
俺の知っているいつもの病室なら、部屋が全体的に可愛らしくカラーリングされ、買ってきたぬいぐるみ等も多々飾られていた。そんな院内学級を強いられている彼女ならではの特権を活用した場所が、今や本当に病人のための個室の様で、個性的な物などは一つもなく、見渡す限り必要最低限のものしか見当たらない。明らかに部屋が違う。それでも、これ以上の俺の見解を最大限展開して詮索するよりも、ここからは彼女に何があったのか直接問いただした方が得策だろう。
「なぁ、ルナ姉。単刀直入に言うけど、いつもの部屋と違わなくない?」
「うん。そうだね」
あっさりと、すんなりと
「そうだね」
と言う彼女に対し、不審に思った。
「何で?」
「えっとね……」
先の「うん。そうだね」とは打って変わり、語尾に続く言葉を妙に躊躇い言いださない。彼女がこんなにあからさまにお茶を濁すことは滅多にない。これであの時のことが夢でなかったと大いに考えられる。
「(やっぱり……、あれは夢じゃなかったんだ。じゃあ、ここは他の病室……ってことになるのか?)」
結局その答えは、今の彼女にとっての追撃になりえるものだったため、聞くに聞けなかった。あまり「この話」について触れて欲しくなさそうな彼女の表情が俺の目を見て語る。
「……レッカ君はあの後、多分すぐに気を失って、だいたい丸1日寝てたことになる」
喉から言葉を絞り出すように小さく答えた。その台詞は
「あれはやっぱり現実のことだよ」
と言われるよりも、至言であった。