第一話 ハイティーン・ブギウギ ~青松純平の巻~
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父親としては、やはりネガティブな健太のメンタルが心配だった。健太は人見知りのせいかすぐに友達ができない。健太が家で寂しそうにしているとき、俺は一緒に遊ぶようにしていた。
定番のテレビゲームをはじめ、トランプ、将棋、オセロなど、サシで勝負できる遊び事はなんでも教え、とことん付き合った。勝ち負けよりも、過程を楽しんだ。健太を遊びに連れ出すこともあった。釣り、海水浴、ハイキングなど、外では勝負事ではなく、のんびりと過ごせるものを好んだ。
すると、健太はいくぶん前向きになり、学校から帰ると外へ遊びに出かけるようになった。お気に入りのマウンテンバイクに乗って。
一方、ポジティブな若葉は、
「どこか連れてって~」
とせがんでくるので、娘との付き合いはとてもラクだった。俺は駐車場にバイクを駐め、境内を歩いて回る。
ここ綱敷天満宮は梅を愛した菅原道真公が主祭神で、東の太宰府と称される。地元では【浜の宮】の名で親しまれ、広々とした境内には約一千本の梅の木が植えられている。
「菅公様、前の会社と遜色のない給料をもらえる良い仕事が見つかりました。ありがとうございました」
言いつつ俺は社殿の前で手を合わせ、ゆっくりと瞼を閉じた。参拝するときは「願いが叶いますように」という他力本願な発言はせず、成功したイメージを思い浮かべながら感謝の言葉を述べるようにしている。こうすることで、俺は順風満帆なサラリーマン人生を歩んできた。
なのに、尽くしに尽くした会社にまさか裏切られるとは……。
――三ヵ月前。この十数年、大手電機メーカーのコストカッターとして辣腕をふるってきた俺にとって、人事部部長という肩書は天職のように思えた。おしゃべりは得意なほうだからだ。
「当社のさらなる発展のため、あなたには今の役職に見合った別の働き先で活躍していただき、会社とのパイプ役になってほしい」
「あなたのように有能な人材は、弊社にとどめておくのはもったいない。外に出るべきです」
「あなたはここでくすぶっているような人間ではありません。優秀なあなたなら、他の企業でも必ず通用します。明るい未来が待っています」
などとベタ褒めしてはリストラ対象者を持ち上げる。ちょっとでもその気になったそぶりを見せたり、ためらっている様子であれば人材派遣グループのコンサルタントを紹介し、たたみかけるように退職に追い込んでいく。去りゆく寂しそうな背中を見るたびに胸を痛めたが、これは仕事、仕方なかったのだ、と自分に言い聞かせた。その甲斐あってか、業績が上向いてきた。憎まれ役はまもなく終わると思っていたところ、あろうことかリストラの矛先が俺に向けられた。