「人事部は解体します。黒字体質の強化のため、人事部こそリストラしなければなりません」
まさに青天の霹靂。どうして俺が? 納得がいかず、上に抗議した。
「バブル時代に大量採用した五十代はお荷物社員が多い」
五十代なのは間違いないが、バブル崩壊後の入社なんだけどね。
「能力に比べて給料が高い」
そっちが勝手に支給してくれているのと違います?
「デキる人間だと勘違いしている」
そんなこと考えたこともないけど。次から次へと突き刺さる罵詈雑言にひどくショックを受けた。追い打ちをかけるように個人攻撃も受ける。
「勤務中にアダルトサイト見たよね」
本当だが正確ではない。無能な社員が使用しているパソコンの閲覧履歴を調べているときに不審なURLに気づき、クリックしただけである。濡れ衣もいいところだ。
「新人研修のときに遠藤雅彦の物真似といって、細マッチョの肉体を見せびらかしたそうじゃないか」
それの何が悪い。当時の研修責任者だった副社長が
「レクリエーションで物真似大会をしよう」
と言うものだからやっただけである。
「副社長、実は中林明日菜の大ファンでね。君のこと愚か者と言ってたよ」
あてつけだ。マッチョと明日菜にはいろいろあったみたいだけど……ていうか、そもそも俺とは無関係である。ところで、じゃぱに~ず事務所を退所したマッチョは今どうしているのだろう……そんなことを考えていたとき、不意に役員の一人から告げられた決定的な言葉を思い出した。
「これまで青松君がクビにしてきた無能な社員、そもそもは人事部が採用したんじゃないか。人を見る目がなかった自分を恨むんだな」
ぐうの音も出ない。その夜、俺はうなだれて帰宅した。会社をクビになったなんて妻には言えなかった。そして、妻と子供たちが眠りにつき、あたりが寝静まった頃。俺は一人、バイクで街に繰り出した。いく当てもなく、ひたすらに突っ走るのだった――。