三章「ロマンシング・デイ」当日、彼らは帰ってくる
「バートって呼ばれているのか。ギルバートですら可愛くみえてくるな」
「この先永遠のパートナーとなるのに、名前をそのまま呼ぶのは面倒だ。俺のことをバート、ステファニーのことをステフィーと二文字で呼べば楽だろ」
「俺にはわからないね、バート君」
「トラヴィスはその呼び方をするな」
「こう呼び合うまでいろんな苦労があったわね」
やり取りを見て苦笑いをしたステファニーはキッチンへ向かった。トラヴィスという変人と一緒にいるのを嫌がったのだろうと勝手に解釈した。俺もそのあとを追っていきたかった。ステファニーが見えなくなるのを確認してから「とんでもなく美人じゃないか」と驚いた様子でにやついてきた。
「大金で釣ってきたのか」
なんてデリカシーのない奴だ。
「違うに決まってるだろ」
「あんなに顔が整っている美人がギルバートを選ぶとは考えられない」
「俺とステフィーは釣り合わないと思っているのか」
「あのレベルはモデル級だぞ。ギルバートと美人はなんだかなー」
トラヴィスはいいたい放題だ。トラヴィスの言葉を受け入れてしまい、こんな自分と永遠に過ごすことを考えるとステファニーに申しわけない気持ちになってしまった。戸惑っていると
「そんなことはないですわ。私が選んだバートのような人は、世界中どこを探しまわってもどこにもいません」
ステファニーが先に否定してきた。トラヴィスは手作りのクッキーを持ってきたステファニーを見て、しまったというような顔を浮かべて赤面になりながら頭をかいた。俺は自分の不甲斐なさで消極的になっていたところをステファニーに救われた。
「でも、幸せそうでいいよな」
とトラヴィスはステファニーの手作りクッキーを三枚重ねて口に放り込む。
「トラヴィスは相手がいないのか」
「いっ、いないけど……」
トラヴィスは酷く動揺する。
「お前ってわかりやすいな。誰かに片思いをしているだろ」
「だいたいそういうことだ。相手は振り向いてもくれやしない」
「へー。トラヴィスが狙っているのはマリッサじゃなかったのか」
「昔から何回もいっているだろ。マリッサとは親友の関係だけで、それ以上の関係ではない」
この会話を聞いていたステファニーは
「ねえ、マリッサさんという人ってバートがいっていた小学生からのお友達の一人?」
と口を挟んだ。