二章 「ロマンシング・デイ」前日

リフォームを終えてからもこの趣味にはなかなか飽きることはなく、手入れを続けたいと考えた。そこで大理石を地面に埋め込んだテラスを作ることを決めていた。テラスを作る場所は、門から玄関へと続く自然石の道をはずれ、家の左側に回り込んだ場所にある、ガーデンから直接二階の部屋へ行ける階段の真下に決めた。

テラスはステファニーの要望により、ガーデニングより一段高くすることにした。土台となるのは、リフォームで使用した時に余ってしまったレンガ。リフォームに使う道具をそろえるために買ってきたセンター国最大の市場は、食料から日用品までほぼ何でも売っている。とても便利だ。

自宅から市場までは近距離であるにも関わらずレンガを含めたリフォームの道具を多く買いすぎて、余ってしまっていたため、すぐに取りかかることができた。一日で土台の約八割が完成した。今日で完成させるつもりで早朝から作業を始めたが、遠くの空が赤く染まってきたので残念ながら切り上げることにした。

残ったレンガはほったらかしにして散らばっている。完璧な状態で百二十坪のガーデンを皆にお披露目したかったが、明日のパーティーには間に合わないことが決まった。中途半端な様子をお披露目するくらいなら、俺はテラスなんか作らなければよかったと後悔した。

汗をかくような季節でもないのに服はびっしょりだ。新しい服とタオルを取りに自分の部屋がある二階へ、ガーデンにある階段から向かった。二階に上がると隣の家の屋根より高くなるのでより遠くの景色を眺めることが出来る。遠くの空は良く赤く染まった色をしていた。

俺はそれを見て複雑な気持ちになった。あの赤い空は夕焼けではなく戦場にいた時の赤い空の方が似ている。そもそもあの不気味で暗い赤色は自然界で表すことが出来る色なのだろうか。俺は何者かから逃げるように部屋に飛び込んだ。

不思議なことに、服を着替えたところでいきなり疲れが襲ってきた。今日は早めに就寝しようと決めて、一階まで家の階段で降りようとした。しかし全身を動かす気力は残っていない。とりあえず自分の椅子にもたれかかり、しばしの休息を得てから一階まで降りることにした。

兵士時代はいくら体を動かし、傷を受けても最前線で戦ってきた。そんな俺が疲労で動けなくなるほど劣化してしまうとは思いもしなかった。また死に一歩近づいたのだろう。