三章「ロマンシング・デイ」当日、彼らは帰ってくる
「バート、お客さんが来たわよ」
一階から聞こえるステファニーの声で目が覚めた。椅子にもたれかかったまま寝てしまった俺の体には毛布がかけてあった。そのままの体勢で、これから起こることを想像した。頭のなかでは久しぶりに皆と再会する喜びよりも不安が勝っているようだ。重い体からなんとか毛布を払いのけて、新しい服に着替える。
支度を終えること十分、ようやく一回に降りる。まだ半分眠っている状態から目を覚ましてくれたのは、リビングの八人で囲むことが出来るテーブルの一番端の場所で優雅に座っていたトラヴィスだ。
「第一部隊の一班に所属していたのは本当らしいな」
と俺の家をぐるりと見渡しながら褒めてきた。
「これでも税金で結構持ってかれた方だ」
いいながら、トラヴィスの正面に座った。
「こんないい家に住めるだけいいと思えよ」
「トラヴィスは今回の戦争で満足のいく報酬をもらえなかったのか」
「ああ、俺は第九歩兵部隊の五班だったからな。金は入ってこないから他の班で戦果をあげた情報が入ってくるたびに不満でしょうがなかった。でも、あの事件の情報を聞いた時だけは喜んだぜ」
トラヴィスはよく部屋を見渡すため、汚れた眼鏡のレンズを拭きもう一度かけなおす。
「あの出来事の当事者がギルバートなんだからな」
「さすがに俺の噂話はとめどなく広がっているな。その事件のおかげで一班に昇格して、今の生活があるからな」
「今の生活というのは、どうやら豪華な家のことだけをさしているわけじゃないな」
トラヴィスは台所からお茶を運んできたステファニーの方を顎で指した。
「俺の嫁だ」
「妻のステファニーです。トラヴィスさんのことはバートから伺っています」
トラヴィスはいきなり礼儀正しくなり、ステファニーに何度も会釈をしていた。これから訪れる人たちとステファニーは仲良く出来るのか、皆は迎え入れてくれるのか、気になってしょうがない。できれば上手くやってもらいたいのだが……。