第二章 飛騨の中の白川郷

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河田家も中に一歩入ると、本家並みの巨大な規模と造りの見事さに圧倒された。篠原は受付にいた五十代くらいの女の人に、おそるおそる聞いた。

「この建物は、いつ頃建てられたのですか」

意外なことに、今度はとても親切に教えてくれた。

「江戸時代の末期と言われています。この家は、河田本家から分家した家なんです。河田本家は、ここよりずっと大きい合掌ですよ」

「そこは、もう見ました、午前中に」

「ああ、もうご覧になったんですね。この村で一番大きな合掌は国の重要文化財になっている『和田家』で、次は河田本家、ここはその次か次くらい。大きくはないですけど、他の合掌にはない工夫がいろいろあるんですよ。説明の者がいますから、どうぞ、ゆっくりご覧ください」

丁寧で、言葉も普通の標準語だった。篠原は、村の観光課の人かもしれない、それならば取材しやすい、と思った。

「毎朝新聞の篠原と言います。白川郷の観光課の方ですか」

「いえいえ、この家の者です。あらまあ新聞記者さんですか」

「こちらの奥さんですか」

女の人は笑ってうなずいた。

「何の取材ですか。当家でお役に立ちますかどうか」

きりっと髪を後ろに束ねていて、料亭の女将のような、とても綺麗で賢い感じの人だった。ずいぶん、河田本家とは違う印象だった。

「まだ、何を取材するか決まってないんです。ただ、合掌造りって、和風ビルディングみたいに巨大で、ただ、驚いているんです」

篠原は正直に言った。

「そうね。わたしも、東京から嫁に来たんですが、驚きましたよ。どれ、わたしが説明しましょう」

奥さんは説明係のおばさんと受付を交代すると、篠原と一緒に合掌の中を歩きながら、合掌の細かい説明をしてくれた。