「水野致嗣だ……小学生の時父親の郷土史の講演を体育館で聞いたよ……後で女子が(水野君のお父さんなの、凄ーい)って騒いでたなぁ~。何かあの時あいつ得意顔だったよなー……あいつに私が頼みに行く? 話す事もほとんどないあいつに? いやー無理無理」
私が一人で身もだえるように言葉を羅列していると、タマは事もなげに指示してくる。
「知り合いとはいかないまでも、見知っているみたいだな、父親が郷土史研究家で致高様の致の字を嗣いでいるくらいだから、少なからず興味はあると思うが、致高様の招魂とは話せないだろうから、八幡社の捜索とか歴史的なものについての話がしたいとか、まあ色々考えて何とか連れて来い」
「んぅーー、うん」
不承不承答えると、どうやって誘い出すか頭をひねりまくる。
「一人の時にでも聞いてみるか……何て話せばいいのかなぁ~。あいつに話し掛けるの、私から……やだなあ~」
私がどうするこうすると、体を振りながら行き詰まっているのに、タマは至って冷静に私に言い切る。
「話が決まったら、ここに連れて来る事になると思うが、俺の事は言わない方がいいぞ」
「だったら不思議な猫が水野家の先祖の事で話がある、って言う誘いはダメなのね」
一番いい誘い出し方だと思っていたのに、
「ごく普通に社の事で話したいから、一人で八幡社に来てほしい、でいいだろう」
軽くいなされて、そんな言葉を授けられる私。
「じゃ今度の土日どちらかで、俺もそれまでに色々と揃えておくよ」
「色々って何、私手伝うよ」
タマとまだ一緒に居たい私はそう申し出る。
「お前はまだ部活やっているだろう」
「ビックリ! 私の事をよくご存じで」
思わぬタマの指摘にちょっとうれしくなる。
「俺はプラプラお前の学校にも行くんだよ、ソフト部なんだな、なかなか元気で良かったぞ。水野致嗣は隣のテニス部にいたぞ、話そうと思えばすぐに話せる距離じゃないか」
安易に言って来るタマに、よーく説明してやる。
「それが出来ないの。何てったってあっちは女子にキャーキャー言われる王子様気取りのテニス部、片やこっちは力強いソフト部、あわないんだよ! 話した事なんて殆どないし」
「お前たちの諸事情は知らないが、致高様の事を思うなら何とかして連れて来い」
タマはそう言うと、おかしな格好で寝てしまった。私は仕方がないので家に帰ることにした。