三 午前……十一時五十五分 ドリームアイ停止
「ドリームアイ管制室、こちらドリームアイ運営局担当の滝口です。予期せぬ不具合が発生し、運行が完全に停止しています。管理システムが全く応答しません」
ドリームアイの乗客誘導係員、滝口美香は、観覧車が完全に停止したのを確認してすぐ、システム管制室に緊急連絡を入れた。男性からすぐに返事が来る。これまでドリームアイではエラーなど起きたことがないので、滝口がこの男性と話すのは初めてだった。
『こちらシステム管制室の宮内です。君、バイトの人? あー……ほんと、困ったね。こんなこと、起きるわけがないんだけど。あ、今ドリームアイの運行停止を目視でも確認したんで。緊急時のガイダンスに沿って、速やかに緊急アナウンスを流してください。なるべく早く原因を見つけるから、そっちはそっちでよろしくね』
「はい、わかりました」
滝口美香はそう返事をして通信を切った。
下から見上げると、停止したドリームアイが巨像のようにそびえ立っている。滝口は大学生で、アルバイトとしてここにいる。今までにない状況に緊張しつつ大きく深呼吸をした。来場者の多くはまだドリームアイの不具合に気が付いてはいない。しかし一度気が付けば大きな混乱に繋がるのは明白だ。システムが復旧しなければ、大混乱になるだろう。
「システム管制室からアナウンスをするように指示されましたので、私がやりますね」
運営局のメンバーに声をかけると、周囲は頷いて滝口に任せた。ドリームアイを担当するスタッフの年齢は様々だが、全員アルバイトで正社員はいない。普段からアナウンスを担当している滝口がマイクのスイッチを入れるのは自然な流れだった。
そもそも、ゴンドラ内への連絡方法は二つある。一つ目はスピーカーによる十二のゴンドラへの一斉通知。二つ目は受話器による個別の通話だ。今回は、スピーカーを使って乗客全員にアナウンスを行う。
「皆様、ドリームアイはただ今予期せぬ停止を致しました。これは安全上万全を期すための停止ですので、ご心配には及びません。既に復旧作業を始めております。お客様には大変なご不便とご心配をおかけいたしますが、今しばらくお待ちいただくようお願い申し上げます」
透き通った声からは焦りや緊張はほとんど感じられない。ドリームランドのスタッフは、アルバイトでも高いレベルの研修を受けている。