「うん、例えばね、放火の可能性とかそういうのは一パーセントもないのかってこと」
「そりゃ、ないわ!」
即答だった。
「え~。だって鑑識の結果も、一〇〇パーセントじゃないでしょ?」
「お前なぁ。日本の警察の鑑識のレベルの高さを知らないのか。今のこのご時世、鑑識の技術も相当なところまできているのだぞ」
刑事課に異動する前は、鑑識課で鑑識の業務に携わっていた啓介は、古巣のこととなると、またしばらくうんちくが始まってしまう。
「はい、分かりました。それで、その放火じゃないっていうのなら、例の空白の四時間の謎はどうなの?」
あずみが一番聞きたかったのはそこだ。
「いや、それは……。新聞に発表されたように、何か急に櫻井氏は用事を思い出して、居残ることになったのだと思う」
どうも義兄の歯切れが悪い。
「ふーん。で、お義兄さんもそう思っているの?」
しばらく間が空いた。
「もしかしてお義兄さん個人の考えでは、そう思っていないの?」
「お前なぁ。そう決めつけるな」
義理の妹ひとりに心を読み取られるなんて、まだまだ義兄も刑事として修業が足りないと思う。
「まぁ、なんだ。確かに四時間は長すぎるわな」
「うん、そうよね」
「でも鑑識からは、放火などじゃなく、居間のストーブを消し忘れたであろう火の不始末ということで結論が出ているんだ。これは動かしようがない」
「それじゃあ、その空白の四時間で真琴のお父さんが何をしていたか、そこがはっきりすれば、お義兄さんは納得するのね?」
「まぁな」
冷めたコーヒーを一気に飲み干して、義兄は遠い目をした。
「真琴も、そこのところがなければ、唐突に殺人事件なんて言い出さないと思うの」
「そりゃ、そうだろうなぁ」
「だから、真琴が納得するためにも、さらにお義兄さんが納得するためにも、わたしがその四時間のことをもう一度調べてみる!」
「はぁあ?」