1930年代の研究者たちは自分たちが何をしでかしたか理解していたのだろうか? ジャーナリストのヒラリー・ジョンソンは1980年代の半ばに始まった慢性疲労症候群の感染爆発の成り行きを詳細に論じた『オスラーのウェッブ』という本で、カナダ人の研究者から、1934年と1935年のロサンジェルスでの感染被害者198名が約600万ドルの和解金を受け取ったという情報を入手したことを回想している。この和解金は1939年あたりで支払われたと思われる。
ケントは1939年に一体誰がこのような支払をしたのか調査した。今のお金で1億ドル以上になる金額だからだ。あの大恐慌の時代に一体誰がそんな多額のお金を持っていたのだろうか?
ケントは当初ワクチン培養にネズミの細胞を使用するとして資金提供をしたロックフェラー財団を疑った。彼はまた公表された財務諸表に奇妙な動きを発見した。
1935年にはロックフェラー財団は1億5300万ドルを超える総資産を公表していたが、1939年の後、総資産は1億4600万ドルにまで減少しており、700万ドル以上失っていた。この期間の前と後の年度では増減は従来5万ドル以下の小さな変動だった。これが状況証拠であるが、ロサンジェルスの大感染での最初の犠牲者について医学文献において科学的フォローアップがあまりに少ない理由が説明できると思われる。
2009年10月8日に私たちはレトロウイルスであるマウス白血病ウイルス(XMRV:異種指向性マウス白血病ウイルス関連ウイルス)を初めて分離することに成功し、それが慢性疲労症候群に関係するという世界を驚かせる発見をサイエンス誌に発表した。しかし、当時はロサンジェルスの大感染のことなど何も知らなかった。
私たちの研究結果では慢性疲労症候群の感染者の約67パーセントにこのレトロウイルスが発見された。健康な人々の間では4パーセントを少し下回る程度だ。
これは慢性疲労症候群で苦しむ患者にとっては歓迎すべきニュースだったが、見方を変えると1000万以上のアメリカ人が時限爆弾のようなこのウイルスを持っているということだった。人間の体内にいるこのウイルスを何がきっかけになり目覚めさせ、病気を引き起こすのだろうか?
私たちはレトロウイルスが免疫システムのB細胞とT細胞などの単核白血球に潜みやすい特性を持つため免疫活性に注目した。その以前に行ったエイズウイルスの研究で、エイズに感染した母親から生まれる子どもを守る標準的手続は、生まれた赤ちゃんに対し直ちに、種々のワクチンに先行して、レトロウイルス予防薬を投与することであることを知っていたからだ。