空気の凍る年末は青く、冬の白さを透かしていた。
私は温かい雑踏に紛れながら、ベンチや通路でメッセージを交わした。そんな自分は人ごみの「ごみ」のほうであり、そうして出会ったマキさんも同じ種類の人間だった。
工事中の道を一列になって進みながら、彼は例にもれず既婚者で、輸入会社で働く三十六歳だという話を少しずつした。騒音の中で彼の浅葱色の声を拾いながら進み、彼も私の声だけを聞き分ける。
そこで、ふと疑問が浮かんだ。私にも色があるのだろうか。
考えたこともなかったが、こんなにも極彩色の世界だから、あってもおかしくないような気がした。
あきさんと行ったネットカフェで受付を済ます。店員はマニュアル通りに進めていき、先日来た自分のことを覚えている様子はなかった。またフルフラットシートを選ぶ。
そして、個室に入ると同時にコートを脱いだ。彼の膝にまたがると、応じるように手が添えられる。
二人の間を沈黙が埋める。本名も知らない男性の手が遠慮なく身体に触れると、またあの感覚が全身を包んだ。意識が鈍り、肉体が崩壊していく。体勢が入れ替わって視界が回った。下半身にかけたキャメルのコートが、生きもののように蠢く。
受付の内側に店内を映したモニターがあった。もし、店の監視カメラがこの光景を捉えていたら、と思う。
考えただけでむずがゆさがこみ上げてきた。胸中の濁りがくすぐられ、得体の知れない感情がのたうつ。人からどう見られようと構わないと開き直っていたのに、残る自意識は未練のようだ。ついに笑い声が漏れた。
マキさんと絡みあい、上も下もわからなくなる。わずかに自分の体温が上がっていることを、他人事のように感じた。
まぶたの裏にみずみずしい蜜柑色が広がり、意識を取り戻す。隣の個室だろうか。中学生くらいの二人が、はじめてのネットカフェでドリンクバーとアイスクリームマシーンに心弾ませていた。くらんでいた景色の輪郭が繋がっていく。コンクリート剥きだしの天井と、個室の低い仕切りが目に入った。自分が誰で、どこにいるのか、正気を取り戻すうちに身体はまた元通りになり、気がつけばネットカフェをあとにしていた。
外は日が暮れていた。来る前と同じように、コートのポケットに両手を入れて歩く。マキさんの顔をまだあまり覚えていないため、目を離すと見失ってしまいそうだった。
どういう会話の流れで言ったのか忘れたが、この出会いもめぐりあわせなんだろうね、と私は言った。
運命なんて言葉は信用していなかったが、たまにそう思うことがある。誰もが他人の人生に途中参加して、途中退場する。世界中にいる星の数ほどの人間たちがそれを繰り返し、世界は少しずつ進んでいた。