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今から一年と七、八カ月ほど前になるだろうか、四月の終わり頃、ぼくは大地瞳子と出会った。当初は名前も歳も知らない仲だったけれど、彼女は何度かリカー品川に現れては、酒を飲んでいた。

リカー品川というのは、知り合いの酒屋で、当時ぼくは品川さん宅にしばらく前から居候させてもらっていた。どうして居候なんかしていたかというと、父親と喧嘩して家を飛び出してきたからである。

何かの拍子に、「ああ、つまんね。酒屋なんかやるんじゃなかった」と愚痴をこぼしたところ、「あとを継げなんて命令した覚えはねえぞ、嫌ならやめちまえ」と父親が怒り、言い合いになり、「もうやってらんねえ!」と家を出てきたわけだ。自分に非があることは分かっていたけれど、頭を下げるのも癪であり、品川さん宅に転がり込んだ。「いいけどよォ、その代わり店手伝うんだかんな、タダで」を条件に、居候させてもらっていた。

リカー品川の近くには、北関東病院という大きい病院があり、入院患者がよく客として訪れるのだった。病院の中にも売店はあるのだろうが、散歩がてら店でお菓子や雑誌を買い、病院での退屈な時間を紛らわしているらしい。何よりここには病院では決して買えない物、酒がある。瞳子さんは当時その病院に入院していて、初め、ワンカップのおっさんをパートナーにしてやってきた。   

ワンカップのおっさんというのは、糖尿を患っているくせにパジャマのままふらりとやってきては、病院ではおおっぴらに飲めない酒をリカー品川でうまそうに飲んでいくことを唯一の楽しみとしている、古株の入院患者だ。腎臓に疾患があるらしい。患者用という名目はないが、彼らが座れる来客用のイスもレジのそばに置いてあるから、ベエちゃんがうちでいつもそうするように、それに座って一杯やるのだ。

いつもワンカップの日本酒を飲むので、勝手にそういうあだ名を付けていた。糖尿病なら酒など飲んでいいはずないが、本人が、「好きなもんも飲めねえで、生きてる甲斐があるかっての」と言っているから、素知らぬ振りをして飲ませてやるのが商売というものだ。