自己紹介が遅れました。わたしは、篠原(しのはら)あずみ。十九歳。地方中都市のM市に住むM医科大学看護学部に通う大学一年生。さっきまで相談に乗ってほしいと言ってきたのが、同じ看護学部に通うクラスメートの櫻井(さくらい)真琴。

真琴とは、たまに学食や講堂で席が隣になったときに、お互いのことを少し話す程度の友人だった。でもぐっと親しくなったのは、わたしの義理の兄が刑事だってことを、うっかり口にしてしまったことが原因だった。

そう。わたしの同居している義理の兄は、所轄署の刑事なのです。

真琴の家は、全国展開の某有名アパレルメーカーの実業家を父に持つ、いわゆるお嬢様一家。どうしてうちの学部にきたのだろうとみんな不思議がっているくらい、ハイソな暮らしをしているはず。でも、どうも聞いた話では、父親の後を継ぐつもりもなく、自分は看護の道で自立していきたいんだとか。父親もわざわざ手に職をつけなくてもいいと言いつつ、娘可愛さで大学だけは本人の希望する道に進ませてくれたというわけ。

それで、どうしてわたしが彼女と親しくなったのかと言うと……。

「お義兄さんって言っても、義理だから。亡くなった姉の夫にあたる人……」

「へぇ。お姉さんって、あずみが高校のときに亡くなったのよね?」

「うん、病気でね」

「ふうん。それで、そのお義兄さんとふたりだけで住んでいるの?」

この質問を受けるときは、いつも微妙な心境になる。何か誤解されてはいないか?

そりゃあ、兄は確かに義理ですけどね。でも姉の夫だった人ですよ。その妻が亡くなったからと言って、別に変な間柄じゃない。それに、うちは両親が事故で早くに亡くなっているから、結婚当初から姉夫婦が私の親代わりのようなものだったし。なにより義兄は、私より二十歳も年上なんです。オジサンでしょ。

言えば言うほど、ますます弁解に聞こえてしまうな……。

「それで、その義兄がたまたま刑事なので、正義感に燃えてか、現在わたしを扶養してくれているってわけ」

「え~! 刑事!?」

「そう」

あぁ。言うんじゃなかった……。

あずみの「刑事」という言葉に過剰に反応した真琴はこれ幸いと、先月亡くなった父親についての死因に疑問点があること、また、その真相について調べ直してほしいと思っていることなどを打ち明けてきた。