【前回の記事を読む】「あなたたちはどうしてここに来ることになったのかしら」
第一 雑歌の章その一
鵲の橋
小さい頃、母親に連れられ公園に行きカタバミの四枚葉やシロツメクサの四つ葉のクローバーを母親に負けまいと必死に探しても僕にはなかなか見つけられなかった。
だが不思議なことに毎回、母親はいとも簡単に見つけた。
「どうしてお母さんはそんなに早く見つけることができるの」と悔しくて聞くと、「『ここにいるよ』と花が教えてくれるからよ」と当たり前の顔で言った。
「お母さんは噓つきだよ。花は話せないでしょ」と怒って言い返すと、「そんなことないのよ。花の気持ちになってあげれば、そのうちわかるようになるから。そのうちにね……きっと」とさらりとした答えが返ってきた。
そしてその場所に季節によって育つタンポポ、スベリヒユ、ホトケノザ、ナズナ、ハルジョオン、ヒメジョオン、ヒルガオ、エノコログサ、ノゲシ、ドクダミ、カラスノエンドウ、ハコベ、ツユクサ、ハハコグサ、ネジバナ、ヒメツルソバ、オシロイバナなどの名前を教えてくれ、その生態についてわかりやすく説明しながら母親はそれらの草花にも何か話しかけていた。
母親は庭や公園や道端に育つ草花をなるべく踏まないように気をつけていた。摘んだり抜いたりもしなかった。たとえ四つ葉のクローバーや四枚葉のカタバミを見つけたとしても……。
「この子たちは私たちと同じで一生懸命生きて自分たちのために花を咲かせているから、そっとしておいてあげたいの。でも花屋さんで売っている花は人のために咲いているから買ってあげていいのよ」と言った。
その幼い頃の経験から母親を真似て僕は草花を大切にし、話しかけることを覚えた。
寝る前に、「おやすみ、また明日」と水色と青紫色の花に言葉をかけて灯りを消した。
レースのカーテンの隙間から差し込む月明かりに照らされたブルースターとエリンジウムは眠りにつく彼をじっと見つめている。