「あの娘、アヤカちゃん。おかしいのよ。この間も、その二村さんに話しかけられて、『キミ、そんな格好してて、電車の中で痴漢に遭わないかね』なんて聞かれてるの。ね、それ失礼よねえ。でもアヤカちゃん、人がいいもんだから『そうなんです。あたしって、痴漢に遭いやすい体質のヒトなんです』なんていうの。笑っちゃったわよ、もう。『痴漢に遭いやすい体質のヒト』だって。そりゃあ、あの体で、あんなに肩出して、半分以上おっぱいだって出して、お臍まで丸出しにしてりゃあ、痴漢だって四方八方からすり寄ってくるわよ」
「ふうん。あの鬱病のオヤジ、そんなふうに、若い娘に話しかけるのかい。あたしの顔見ると、すぐ顔をそむけるくせに」
「またぁ、そんなこと比較するのが、おかしいわよ。二村さんねえ、ちょっと綺麗な娘がいると、まず必ずタバコの火を貰うのよ。時計持ってるのに、時間を尋ねるとかね。そのうち、陰気な顔で目を伏せながら、ぶつぶつ服装や髪形の説教したりしてね。まあ、たいてい嫌がられるわよねえ」
睦子は、サイフォンのコーヒーを容器に入れ直しながら続けた。
「でも優しいのよ、アヤカちゃん。派手に見えても、やっぱり田舎の子で情にもろいというのか。だから逆に、男に利用されちゃうわけ。大金貸したりとか、借金押し付けられて、ニッチもサッチもいかなくなっちゃうとか。しょっちゅうらしいの、話聞いてみると」