第二楽章 苦悩と悲しみの連鎖
Ⅲ 添い遂げたかった愛のカタチ
この青天の霹靂のような出来事を、どう理解していいのか、また、今後のことについても、まったく考えが及びませんでした。親への心配はかけたくないと思っていた誠子でしたので、自分の胸の中だけに、とどめておくことしかできないでいました。きわめて平静を装って、親にも子どもにも接していたのです。
どうしよう、どうしたらいいんだろう。英介に対する誠子は、徐々にぎこちないものとなっていました。食欲も落ち、子どもの世話するのが精いっぱいという状況です。そんな誠子の様子に、英介は気づいていたのでしょうか。英介は英介で、自分のことだけしか考えていなかったようです。そうでなければ、誠子の異変に少しは目を向けてくれていたかもしれません。
「キミと別れようと思う」
ある日突然に、英介から告げられました。それだけは言ってほしくなかった。そんなふうに英介から切り出されることを、誠子は無意識に思っていたのかもしれません。誠子は大粒の涙をこぼしながら、
「なぜ……?」
とだけ、言いました。
「好きな人ができた。でも、子どもの養育費はきちんと払うつもりだよ。キミには本当に申し訳なく思う。だけど、もう気持ちがどうしてもついていかないんだ。頼む! このとおりだ」
英介はそう言って、頭を下げるのでした。ギャンブルで稼いだらしい札束を、英介が誠子の前に差し出すと、
「わたしはいやです。あなたと別れるなんて、絶対にいや」
誠子は泣き崩れました。
「わたしは知っていました。あなたが女の人と会っていることを。あなたの後を追って初めて見てしまったとき、どうしていいか、わからなかった。親に心配かけたくないからずっと黙っていたの。いつかまた、あなたは戻ってきてくれる! そう信じて、信じてきたのに。お金は払うから別れてくれって……。そんなの納得できない。わたしは、あなたと生きたい。添い遂げるって、ずっと思ってきたのよ! 今でも英介さんのことが、大好きなの。わたしのどこがダメなの?」
「ダメじゃないんだ。他に好きな人ができてしまったんだ。僕だってそりゃ考えたよ。悩んだよ。何日も何か月も。でも、無理なんだよ……」
「それはあまりにも一方的すぎない? わたしは別れたくない。別れないから!」
誠子の哀しみはあまりに深く、心の糸が、今にも切れてしまいそうでした。英介さんは、ダメじゃないって言った。じゃあ、なぜ別れてくれなんて言うの? なぜ? わたしはイヤっ。
それでも誠子は、子どもにはいつもと変わらず平然として関わりながら、英介のことを
「いいパパだよね」
と以前にも増して伝えるのでした。
「ママも、パパのことは大好きだもの。パパがいてくれて、本当によかったね」
これは誠子の本心にちがいありませんでした。
「あと一度でいいから、どうしても子どもと3人で出かけたいの。遊園地でいいから連れて行ってもらえないかしら」
ある日、誠子は英介にそう願いを伝えると、
「わかった」
と短い返事が返ってきました。