第二楽章 苦悩と悲しみの連鎖

Ⅱ 家族を守るために

本当に好きな人と、幸せになりたいよね。お互いに好き同志、結ばれたいよね。碧衣さんの想いが、どうか叶かないますように。女性として生まれたことを心から楽しみ、愛する人と一緒に、末永く幸せを分かち合えますように。

Ⅲ 添い遂げたかった愛のカタチ

まさに、祝言の儀が始まろうとしていました。親戚一同が見守る静まった広間で、誠子と英介は身を正し、三々九度の盃を受け、晴れて夫婦の儀を交わしました。ここまでの道のりは、順風ではなかったようです。本人同士の愛は確かめ合ったものの、お互いの家が、ふたりの結婚を認めようとしなかったからです。

英介には聴覚に不自由がありました。どちらの家もごく一般的な家庭で、穏やかな家族でした。ふたりの結婚への決意は固く、駆け落ちまでも考えたこともあったようで、両親が渋々折れる他なく、ようやくひとつのゴールを迎えることができたようです。こうして、念願の結婚生活を送ることは、誠子は子どもの頃からずーっと夢に描いていたことでした。

大好きな人と結ばれて、幸せな時間をともに過ごすこと。添い遂げることが夢でした。そのうちのひとつを叶かなえることができた喜びに、誠子は心から幸せを感じていました。英介の聴覚のことについても、先天性のものではなかったので、なんの心配もしていませんでした。

真面目で優しくて、仕事熱心で、ユーモアもあって話題に尽きない人。そんな英介が愛おしく、誠子は心から尽くしたいと思っていました。やっと巡り合えた! と思っていたのです。

誠子と英介は、互いにひとり旅に出かけた先で、初めて出会いました。鮮やかな紅葉が美しい雄大な景色に抱かれて、どちらからともなく声をかけたのが、きっかけだったようです。英介のほうがほんの少し年下ではありましたが、ふたりはすぐに意気投合しました。