週末に、久しぶりに家族3人で出かけることが叶いました。子どもと英介が楽しそうに笑っている姿を見る誠子の眼差しは、本当に幸せそうでした。うれしくてはしゃぐ子どもの横顔も、英介の仕草も、誠子が夢に描いていた家族の一コマです。こんな時間がずーっと続いてくれることを願う誠子に、私は共感してしまいます。
帰り道、遊び疲れた子どもの寝顔でさえ、誠子にはかけがえのないヨロコビでした。帰宅後、英介にお礼を伝える誠子の顔は、とてもやさしい表情をしていました。
それから数週間後の週末、誠子は子どもとふたりで実家へ泊まりに行くことにしました。両親も楽しみにしてくれていて、孫と過ごす楽しい時間となったようです。帰る前日、誠子はどうしてもひとりで出かけたい場所があるので、半日子どもを見ていてほしいと両親に伝え、実家をあとにしました。
ところが、夜になっても誠子は実家に戻ってきませんでした。なんの連絡もなく、心配になった両親ですが、とりあえず翌朝まで待つことにしたようです。翌日の昼になっても、誠子は帰ってきませんでした。仕方なく、警察へ連絡して捜索願を出すことになりました。
両親から英介にも、誠子のことが伝えられました。英介は一瞬、なにが起こっているのか理解できず、頭のなかが真っ白になり、子どもが待つ誠子の両親のもとへと向かいます。誠子が帰ってきていない? なにが起こっているんだ。誠子はどこへ行ったのか。英介は混乱するばかりで、状況がなかなか飲み込めないままでした。
「ママは、どうしたの?」
「なにか、急な用事ができちゃったのかもしれないね」
そう答えるしかできませんでした。数日経って、警察から連絡がありました。
「誠子さんかどうか、ご家族の方に確認をお願いしたいのですが……」
英介がひとりで、指定された警察署へ向かいます。案内されたその部屋は、ヒンヤリとした霊安室でした。顔を覆った白い布の下に、変わり果てた誠子の顔を見た英介は愕然とします。
「なぜだあ、誠子……」
英介は誠子の身体を揺さぶりながら、大声で問いかけ、顔をうずめて泣き崩れました。
なぜ、こんな姿を僕に見せる? もっと話を聞いてあげられなくて、ごめん。キミの心に寄り添えなかった僕は……。無念の想いだけが、英介の胸の奥でこだましていました。