第一部酒編

進化と退化

ところがさらに進化が進む過程で、この有難い酵素の効きが弱くなる変化が蓄積されてしまった人種が出てきた。それがほかならぬ日本人だという研究が、大阪大学の研究者らによって発表されたという話題が、いつぞや新聞の記事に載っていました。

研究室では、十七万人の日本人のゲノムを解析し、過去一万~二万年の間に変化した個所を二十九か所突き止めたということです。

その中でもアルコール代謝に関係する「ADH1B」と「ALDH2」という酵素をつくる部分に際立った変化が見られたということです。なんでも世代を経るごとに酒に弱くなる変化がゲノムに蓄積していき、肝心の酵素が働きにくくなってしまうのだとか。その結果、酒に弱い体質の日本人へ進化したと考えられるということです。

ふ~む、日本人は進化とともに酒に弱くなったと。

しかし、どうも納得しがたいですな。難しいゲノムの変化がどう蓄積するかしないかは別として、私に言わせれば、それは「進化」ではなく、「退化」ではありませんか?

そうすると私の子から孫へ、そのまた子、孫へと代を重ねていくにつれ、ますます日本人は下戸になるというのでしょうか? まさか再び樹上生活に戻るというようなことはないでしょうけれど。

勇気を奮って禁断の果実を口にしたご先祖様に申し訳ないという気持ちでいっぱいになってきます。